暦の上では立春が近づき、そろそろ春の気配がという時期ではありますが、まだまだ寒い1月の終わり。
熱々の鍋料理は、身も心も温まる冬のごちそうとして、週末にゆっくりと家族で食べる人も多いのではないでしょうか。
中でもあんこう鍋は「東のあんこう、西のふぐ」と並び称されるごちそう鍋。
今回はあんこう鍋について紐解いていきましょう。
江戸時代の珍味・あんこう
あんこうは深海に住む魚として知られ、25種類ほどが日本の近海に生息しています。
大きな口をもち、少しグロテスクに感じられるぶよぶよとした体は、栄養価も高く捨てるところがないといわれるほどで、刺身や鍋、唐揚げなどの料理で楽しむことができます。
日本では鱈の仲間として分類されており、江戸時代には意外にも、鶴やひばりと並び、三鳥二魚と呼ばれる珍味として親しまれていました。
身がやわらかいため、まな板の上でさばくことができず、あんこうを手鈎で吊るしてさばく「吊るし切り」でさばかれることでも知られています。
あんこうの本場・大洗で味わうあんこう鍋
北海道から九州までの各地で水揚げされるあんこうですが、あんこう鍋で町おこしをした地域があります。
茨城県の大洗市では、1998年から「大洗あんこう祭」を開催していますが、現在では毎年10万人が大洗を訪れ、当日はあんこう汁が振る舞われます。
あんこうの旬に当たる11月から3月までは、ホテルや旅館などでも「あんこう鍋フェア」が行われ、それぞれに特徴のあるあんこう鍋を提供します。
大洗のあんこう鍋は濃厚な味噌仕立てで、他の地域で食べられている醤油味や味噌味のものとは一線を画しています。
大洗では、鍋を作るときにまず土鍋であんこうの肝を煎り、味噌を加えて練ったものにだしと具材を加えて作るあんこう鍋を作ります。
なめらかな口当たりとしっかりとした深いうまみがあり、1度食べるとやみつきになる味わいです。
あんこうを使った大洗の隠れた郷土料理
しかし、あんこう鍋はもともと、大洗の郷土料理だったというわけではありませんでした。
あんこう祭りが開催されるようになってから鍋の作り方を統一し、それが大洗に広まったといえ、郷土料理として食べられていたものはちょっと違います。
もともとあんこうは、大洗ではタコ漁などをしたときにたまたま取れてしまう魚のひとつで、値段がつかなかったため、地元の人が「煮合い」という料理にして食べていました。
煮合いは、鍋で乾煎りした肝と身を合わせて煮たもので、お酒のあてとして親しまれていました。
一方、旅館などでは湯引きしたあんこうの肝と身を、肝と酢味噌を合わせて作ったたれをつけて食べる「供酢」という料理を出していました。
日本酒にぴったりのおつまみとして食べられる煮合いや供酢は、今でも大洗にある老舗の料理屋などで楽しむことができます。
ぜひ大洗を訪れて、味わってみたいですね。
あんこう鍋とともに楽しむお酒
さて、あんこう鍋に合わせるならどんなお酒が良いでしょうか。
あんこう鍋というと日本酒のイメージがあるかもしれませんが、実はワインと相性が良かったりします。
あっさりとした醤油仕立ての鍋にするのであれば、ヴィオニエを使用した白ワインがおすすめです。
代表的な銘柄でいえばフランス・ローヌ地方のコンドリューが挙げられます。
ヴィオニエは、たっぷりのゼラチン質を含んでぷりっとしたあんこうの身に負けず、おいしく楽しむことができます。
また、海のフォアグラともいわれるあんこうの肝をたっぷりと使った味噌仕立ての鍋ならば、ピノ・ノワールを使った赤ワインを。
ほどよい渋みと果実味の感じられる、フランス・ブルゴーニュ地方のジュヴレ・シャンベルタンはいかがでしょうか。
軽やかな酸味の感じられる赤ワインは、肝と味噌の濃厚でしっかりとした味わいをさらに味わい深く引き立ててくれます。
まだまだ続く寒い週末に、熱々のあんこう鍋とワインを合わせれば、楽しい夜を過ごせること間違いなしですよ。