今回はリイド社の「大江戸酒道楽~肴と酒の歳時記~」(ラズウェル細木)から日本酒を紹介したいと思います。
ラズウェル細木先生と言えば、グルメ漫画が数多くありますが、この作品の舞台は江戸時代の江戸、主人公は酒屋を営む大七です。
「酒屋」で店売りを想像するかもしれませんが、江戸時代に店を構えているのは、ある種の資産家で、大七は棒手売(ぼてふり)で酒を売り歩く毎日です。
「棒手売(ぼてふり)」は「振売(ふりうり)」とも言い、天秤棒を担いで歩き回る仕事の総称です。天秤棒の前後に、商品を入れたザルや桶、木箱などを括り付けて売り歩いていました。
大七の売っているのは酒。求めに応じて量り売りをしています。
そこそこ商売は繁盛しているのですが、大七自身も酒好きなので、商売ものにチョイチョイ手を出してしまいます。客の誘いに乗ってしまったり……
お返しと言って商売ものに手を出したり……
女将さんが怒るのも無理ないですね。
ちょっと戻ると、大七は売り声で「もろはく~ なかぐみ~」と言っています。これが分かる人は、どのくらいいるでしょうか。コマの外に「諸白(もろはく)=高級清酒 中汲(なかぐみ)=濁り酒)」とありますが、もう少し詳しく説明しましょう。
日本酒の原料が米(酒米)であるのは、ご存じと思います。日本酒を作る時に、麹菌を繁殖させる麹米(こうじまい)と、その後に仕込む掛米(かけまい)を用いるのですが、その両方に精白した米を用いたお酒を「もろはく」と言います。つまり「諸=両方」「白=白米」と漢字の通りです。
ちなみに麹米を精白しない玄米で、掛米に精白した米を使ったお酒は「片白(かたはく)」と、両方に精米しない米を使ったものを「並酒(なみざけ)」と言ったそうです。
また「中汲(なかぐみ)」は、濁り酒ではあるのですが、その上澄みをくみ取ったもので、濁り酒の中でも、比較的上物のお酒のこと。浄瑠璃には「名酒盛色の中汲(なさけざかりいろのなかくみ)」とお酒を詠み込んだ節もあります。
ただしこの区分が、常に当てはまるかと言えば、そうでもありません。
「諸白(もろはく)」が比較的高級なお酒の代名詞として使われ、「中汲(なかぐみ)」がそうでないお酒の総称として使われることもありました。
また現代においては、「中汲(なかぐみ)」が、絞りたてのお酒を表す言葉として用いられることもあります。そうした変化を踏まえつつ、お酒を味わうのも一興でしょう。
高級酒の代名詞として使われただけあって、「諸白(もろはく)」の名前を持つお酒がいくつかあります。
例えば、新潟県にある越後鶴亀の「鶴亀諸白」です。
同社のホームページによると、「古文書に基づき、失われた古典醸造法『古式きもと造り』を用いました」とあります。
精米歩合90%も、その辺りの作り方によるものでしょう。今では精米歩合で50%、60%などが、たくさんありますが、それらに比べると、むしろ玄米に近いと言えそうです。
鶴亀諸白の酒色は、うっすら黄色みがかっており、日本酒度は-50。「甘い上立香があり、みりんや紹興酒のような味わいも感じさせます」とあることからも、相当な甘口と思われます。
そして兵庫県にある小西酒造の「伊丹諸白」です。
こちらは先の説明通り、「麹米と掛米の両方に精白米を使った澄み酒の最高級品」とあり、日本酒度は+3なので、やや辛口です。
もはや「諸白(もろはく)」では、ひとくくりにできないですね。興味のある人は、ぜひ2つを飲み比べてみてください。
さて漫画の最後には、おめでたい話が待っていました。
現在は「コミック乱ツインズ」で続編となる「大江戸子守り酒」が連載中。題名で想像できるように、大七の息子である誉がスクスクと育っています。
ただし大七の酒好きは相変わらず。引き続きお酒や肴の話がてんこ盛りに出てきますので、機会があれば紹介したいと思います。
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大江戸酒道楽~肴と酒の歳時記~
作者:ラズウェル細木
発行:リイド社
■参考
越後鶴亀ホームページ:http://www.echigotsurukame.com/
小西酒造ホームページ:http://www.konishi.co.jp/