イギリスで開発されたポーターが、アイルランドに持ち込まれて独自の進化を遂げた黒ビールがスタウト(Stout)です。スタウトとは「強い」という意味で、その名の通りポーターよりもアルコール度数が高い傾向にあります。
ポーターでは黒い色や濃い味をつけるために、カラメルモルトやブラックモルトなどの「ローストした麦芽(モルト)」を使うのに対し、スタウトでは発芽していない「ローストした大麦(バーレイ)」を使っている点が違いです。この方法は現在もスタウトを作っているギネス社の創業者アーサー・ギネスが1772年に考案したもので、麦芽にかけられていた税金を節約するための工夫でした。
スタウトの特徴
ポーターと同様に非常に濃いビールで、コーラのような黒さと、きめ細かい褐色の泡が特徴です。ホップの苦みや香りは全く感じられず、代わりにコーヒーに似た香ばしい苦みと香りを持っています。しかし、このため、ビールの苦みが苦手という人でも、スタウトの苦みは全く平気ということもあります。甘みは少なく、シャープな味わいが特徴です。
苦みや酸味が強いのですが、濃厚なコクによってあまり感じられず、全体的にはまろやかな味わいになっています。銘柄によっては口当たりがライトで苦みが非常に弱い物もあり、ピルスナー系のビールが好きでない人にもなじみやすいビールといえます。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | アイルランド |
発酵の種類 | 上面発酵(エール) |
色 | 黒 |
度数 | 3.8~6% |
麦、ホップ以外の原料 | ローストした大麦(麦芽ではない)、乳糖など |
最適温度 | 13度 |
有名な銘柄(海外) | ギネス エクストラスタウト(アイルランド) マーフィーズ アイリッシュ・スタウト(アイルランド) サミュエル・スミス オートミール・スタウト(イギリス) マケソン スタウト(イギリス) など |
有名な銘柄(日本) | 箕面ビール スタウト(箕面ビール) NESTスィートスタウト(常陸野ネストビール) 島国スタウト(ベアードブルーイング) 一番搾りスタウト(キリンビール) アサヒ スタウト(アサヒビール) など |
スタウトの飲み方
ポーターと同様に、スタウトも“冷やしてはいけない”ビールです。冷やすと香りや味が薄まってしまうので、冷蔵庫から出したら15分ぐらいおいて、温度が10度以上になってから飲みましょう。ごくごく飲むのではなく、一口ずつゆっくりと口に運び、くつろぎながら味わうのがお勧めです。冬に体を温めるビールとしても飲まれています。
ポーターと同様に味の濃いステーキやローストビーフといった肉料理の他、カキ料理にもよく合います。チェダーチーズといった乳製品、チョコレートケーキなどのチョコ系スイーツも互いの味を引き立て、良くマッチします。
スタウトの種類
ドライ・スタウト
ギネスのスタウトを始祖とする、伝統的なスタウトです。真っ黒な見た目、きめ細かく持ちが良い泡、ローストした大麦の香ばしさが特徴です。ポーターに比べると甘みが少なく、切れの良い味をしていることから「ドライ」の名で呼ばれています。
先述のギネスや、マーフィーズのアイリッシュ・スタウトなどはここに分類されます。
スウィート・スタウト(クリームスタウト)
製造時に砂糖を追加して製造されるスタウトです。イギリスではより濃い味を求めるために、ポーターやスタウトに砂糖を入れて飲む習慣があります。この味を実現するため、最初から砂糖を追加して濃い味に作られた、イギリス生まれのスタウトです。
味は麦芽由来の甘みに加え、チョコレートやカラメルに似た甘みのある香りを持っています。甘みが増えた分、苦みはドライ・スタウトよりも弱めになっています。
オートミール・スタウト
原料の一部に引き割りのオーツ麦(オートミール)を使ったスタウトです。ローストされた麦芽の香りはなく、代わりにオーツ麦由来の芳醇な香りがあります。チョコレートやカラメルを思わせる香りや、滑らかな味わいが特徴です。
インペリアル・スタウト
18世紀にイギリスからバルト海沿岸地方(ドイツ北東部からポーランド、ラトビアにかけて)に輸出されていた高アルコールビールが由来となって発明されたスタウトです。この高アルコールビールがロシア帝国のエカテリーナ2世のお気に入りとなり、イギリスの醸造所がこぞってロシア皇室向けに製造したことから「インペリアル(帝国)」の名で呼ばれるようになりました。
アルコール度数は7~12%とビールにしてはかなり高い点が特徴です。ホップの苦みが強くありますが、麦芽の甘みによってそれほど苦くは感じられません。香り、コク、苦みのバランスが非常によく、インペリアルの名にふさわしいリッチな味わいです。
フォーリン・スタウト(エクスポート・スタウト)
フォーリン(Foreign=外国)やエクスポート(Export=輸出)の名のとおり、アイルランドから外国に輸出された先で進化したスタウトです。コクやアルコール度数がアイルランドのドライ・スタウトよりも強くなっており、度数は5.7~9.5%となっています。
日本ではアサヒやキリンがこのタイプのスタウトを製造しています。
なお、日本のビール業界での公正競争規約では「濃色の麦芽を原料の一部に用い、色が濃く、香味の特に強いビールでなければ、スタウトと表示してはならない」というルールが課されています。つまり上面発酵(エール)でなくピルスナーのようなラガーであっても、黒くて濃いビールならスタウトと銘打って販売してもOKになっています。
下面発酵で作られた黒ビールはドイツの「シュバルツ」というスタイルに近い物で、厳密にいえばスタウトとは異なります。ただ、有名なキリンやアサヒのスタウトは上面発酵で作られているエールビールなので、心配(?)しなくても海外の人に「日本のスタウト」として紹介できます。
次回はベルギーで夏の飲み物として作られたビール「セゾン」を紹介します。