IPAとは「インディア・ペールエール(India Pale Ale)」の略で、18世紀末に生み出されたペールエールの一種です。名前に「インディア」とつきますが、インドで作られていたわけではなく、イギリスからインドへ送るためのビールであったことに由来します。
IPA誕生のきっかけ
18世紀末、イギリスの植民地であったインドには、農地経営のために多数のイギリス人が滞在していました。インドではビールは作られておらず、在印イギリス人のために本国から輸出されていました。
しかし、イギリスから太平洋を南下し、喜望峰を周ってインドへと向かう約4カ月の航海の間に、温度と振動によってビールは劣化してしまいます。これを防ぐため、アルコール度数を高くし、防腐剤としてホップを大量に使うという策がとられました。こうして生まれたのがIPAです。
IPAの特徴
IPAの最大の特徴は、何といってもホップの強烈な苦みです。初めて飲んだときの感想は、間違いなく「苦っ!」となります。この苦さは人によって好みが大きく分かれるところですが、好きな人にとっては癖になる味わいです。
ホップが多量に使われていることで、苦みだけでなく香りも際立っています。ペールエールのフルーティーな香りとホップのハーブのような香りが合わさり、非常に芳醇な香りとなっています。
ホップの香りがよく出ているということは、使われているホップの品種によって、それぞれの個性がはっきり表れるということでもあります。ホップの苦みと香りが強調されたIPAは、「ホップを味わう」ことができるビールといえそうです。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | ロンドン(イングランド) |
発酵の種類 | 上面発酵(エール) |
色 | 金色~濃い銅色 |
アルコール度数 | 5~7.5% |
麦、ホップ以外の原料 | 無し |
最適温度 | 10~13度 |
有名な銘柄(海外) | パンクIPA(イギリス) デイオブザデッド IPA(メキシコ) ブルックリン IPA(アメリカ) フラーズ インディア・ペールエール(イギリス) など |
有名な銘柄(日本) | インドの青鬼(ヤッホーブルーイング) NESTジャパニーズクラシックエール(常陸野ネストビール) 帝国IPA(ベアードブルーイング) 志賀高原 IPA(玉木本店) など |
IPAの飲み方
ペールエールと同じように、ややぬるめの10~13℃で、少しずつ味わう飲み方がお勧めです。しかし、発想を転換して、夏の暑さに負けないためのビールとして味わいたいときは、ピルスナーのように少し冷たくして飲むのも良いかもしれません。
2013年にはワイングラスやビールグラスで有名なシュピゲラウ社が、IPA専用のグラスを開発しました。脚のような部分を持つことで体温が伝わり、ホップの香りが際立つ仕組みです。また、とぐろのような構造と、本体との間にある段差によって流れが生じ、常に香りがかき立てられるようになっています。
IPAの種類
イングリッシュ・IPA
イングリッシュ・IPAは本家イギリスで生まれたときのIPAであり、単にIPAといえばこれを指すことが多いと思われます。イギリス産ホップのハーブのような香りが特徴で、バランスの良い苦みと味わいをしています。
アメリカン・IPA
アメリカで作られたIPAで、イギリスのIPAと並んで多く作られています。アメリカン・ペールエールと同様に、アメリカ産のホップをたっぷりと使用している点が特徴です。アメリカ産のホップは柑橘系の香りを持つ品種で、イギリス産のハーブのような香りのホップとはまた違った味わいを醸し出します。
日本で作られているIPAでは、アメリカンの方がイングリッシュよりも多いようです。
ダブル・IPA
ダブル・IPAは別名「インペリアル・IPA」とも呼ばれています。Double IPAで略してDIPAと表記されたり、Imperial IPAでIが二つということでWIPAと書かれたりもします。
ダブルは麦芽の量が2倍という意味で、コクが普通のIPAよりもはるかに上になっています。アルコール度数も7.5%以上と高く、ワイン並みの14%もある物も珍しくはありません。
インペリアルは「帝国」の意味で、かつて度数の高いスタウトビールがロシアのエカテリーナ女帝に献上されてインペリアル・スタウトと呼ばれたように、アルコール度数が高いことを示しています。
次回は小麦を使ったドイツ生まれのビール、ヴァイツェンを紹介します。IPAとは真逆の甘いビールです。