ケルシュ:低温長期熟成のさっぱりしたエールビール

ケルシュ:低温長期熟成のさっぱりしたエールビール

ケルシュ(Kolsch)はドイツのケルン地方生まれの伝統的なビールです。その歴史は非常に古く、874年には作られており、1250年にはケルン醸造局が存在し、1396年にはケルン醸造所団体ができています。現在でも、「正統」なケルシュはケルン市とその近辺でのみ生産され、消費もほとんどそれらの地域だけで行われています。

ケルシュ

ケルシュの最大の特徴はその製造法にあります。エールビールの酵母を使って上面発酵をさせ、熟成の時にはラガービールのように低温で長期間熟成を行います。
こうして作られたケルシュは、エールの豊かな香りと、低温熟成によるラガーのようなすっきりとした飲み心地の両方を兼ね備えており、まさに両者の良いところを併せ持ったハイブリッドなビールです。二次発酵をさせる時には、下面発酵の酵母を追加投入することもあります。

ケルシュの特徴

ケルシュの見た目はピルスナーと近いところがありますが、香りや味はかなり異なっています。香りはエールビール特有の華やかさを持ち、白ワインのような、甘みのあるさわやかさを感じさせます。
味には麦芽の甘みはそれほどなく、ホップの苦みとドライさ、わずかな酸味があります。日本のビールのようなすっきり感と、甘さを感じさせる香りが同居しており、非常にのど越しが軽く飲みやすい味わいです。一部には、原料に小麦麦芽を使ってフルーティーさを強調した銘柄もあります。
おすすめの温度は9度で、ピルスナーと同じぐらいに冷やしても香りや甘みも失われにくく、すっきりとした味わいを楽しめます。

項目詳細
原産地ケルン地方(ドイツ)
発酵の種類上面発酵(エール)
※ハイブリッドビールとされることもあり
金色~麦わら色
アルコール度数4.8~5.2%
麦、ホップ以外の原料無し(小麦麦芽を使う物もある)
最適温度9度
有名な銘柄(海外)ドム ケルシュ(ドイツ)
ガッフェル ケルシュ(ドイツ)
フリュー ケルシュ(ドイツ)
ツンフト ケルシュ(ドイツ)
など
有名な銘柄(日本)京都麦酒 ケルシュ(黄桜)
田沢湖ビール ケルシュ(田沢湖ビール)
宇奈月ビール 十字峡(宇奈月ビール)
オラホビール ケルシュ(信州東御市振興公社)
など

ケルシュの味

ケルシュの定義

ケルシュの定義

ドイツはビールの定義について非常に厳格な国であり、15世紀に制定された「ビール純粋令」が現在でも適用されています。この法令は「ビールは水と大麦麦芽、ホップで作られたもの以外には認めない」という物で、例外として小麦麦芽が使える種類のビールでも、使用量の下限や上限が厳しく定められています。ケルシュも例外ではなく、小麦麦芽の使用料は50%以下でなくてはいけません。

また、ケルシュは特定地域で認められた製造法で作られた物でないとその名を名乗ることが出来ない、いわゆる原産地名称保護制度が適用されています。シャンパンがフランスのシャンパーニュ地方で、現地産のブドウを使って15カ月以上の熟成を経て作られたスパークリングワインでないと名乗れないように、ケルシュも「ケルシュ協約」に調印しているケルン近郊の24の醸造所で作られるビールだけが名乗ることが出来る名前なのです。
この協約は1986年に締結された物で、伝統と品質を守るための16の掟が定められています。

日本の「ケルシュ」

日本のケルシュ

実は日本のクラフトビールでも、ケルシュと同様の製法を使って作られた物が多くあります。低温熟成で作られたすっきりした飲み口は、夏の暑い気候にもよく合い、日本のピルスナーが好きな人にも受けが良いことが理由かもしれません。
当然ながら日本の醸造所はケルシュ協約に調印していないので、これらのビールは「ケルシュ」と名乗ることは許されておらず、厳密には「ケルシュ風」となります。

本場のケルシュには、醸造所が小規模で海外への販路を持たず、ビールが非加熱で賞味期限が短いこともあり、飲みたければケルンに来るしかない銘柄が数多くあります。ケルシュを飲むためだけに、ベルリンやフランクフルト、あるいはドイツ国外からケルンを訪れる人がいるほどです。

ケルシュの飲み方

ケルシュの飲み方

ケルシュ協約には作り方のみならず、飲み方までもが規定されています。

ケルシュを飲むのに使うのはシュタンゲ(Stange:ドイツ語で「小枝」の意味)という、容量200mlの細長いグラスです。飲食店ではシュタンゲ専用のクランツ(Kranz:花輪)という手提げ型のお盆(グラスが倒れないようにくぼみがついている)に乗せられて運ばれてきます。
こうした飲食店では、グラスが空になるとすぐに新しい物と交換され、そのたびにコースターに線が引かれて伝票代わりになります。椀子そばがふたをすれば終了になるのと同じように、コースターでグラスにふたをすれば終了のしるしになるとのことです。

ケルシュの飲み方2

ビール好きなら、是非ともケルンを訪れて本場のケルシュを味わってみたいものです。

次回はイギリス生まれの、苦くないしっとり系ビール「ブラウンエール」を紹介します。

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