シュバルツ(Schwarz)はドイツ生まれの黒ビールで、名前はドイツ語で「黒」の意味です。シュバルツビア(Schwarzbier=黒ビール)という名前でも呼ばれています。日本語表記では「シュヴァルツ」となることもあります。
シュバルツの最大の特徴は、下面発酵で作られるラガービールである点です。黒ビールというと上面発酵で作られるイギリスのポーターのように、どっしりとして濃くアルコール度数も高いという印象がありますが、シュバルツはそんなイメージを覆すシャープですっきりとした黒です。
シュバルツの特徴
シュバルツの黒さは、他の黒ビールと同じように、ブラックモルトやチョコレートモルトといった、強くローストした麦芽を使っていることに由来します。そこにドイツ発祥の下面発酵酵母を使うことで、ピルスナーと同じぐらいのアルコール度数で、シャープなのど越しのビールとなるのです。
上面発酵ではないのでエールビールのような発酵の副産物に由来する複雑な香りは無く、麦芽のカラメルのような甘みも、強すぎないレベルに抑えられています。ホップの苦みや香りも弱く、黒いビールの中では一番あっさりしているスタイルです。
ポーターやスタウトでは濃すぎるけれど、ピルスナーやヴァイツェンでは物足りないと感じている人におすすめです。のど越しが良いので日本の夏にも合っており、バーベキューなどにはぴったりのビールです。
チョコレートとの相性も良く、少しぬるめにしてチョコレートをかじりながら飲むと、互いの味が良く引き立てられます。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | ドイツ中部 |
発酵の種類 | 下面発酵(ラガー) |
色 | 濃い茶色~黒 |
アルコール度数 | 3.8~5% |
麦、ホップ以外の原料 | 無し |
最適温度 | 9度 |
有名な銘柄(海外) | ケストリッツァー シュバルツビア(ドイツ) モンヒスホーフ シュバルツビア(ドイツ) サム・アダムス ブラックラガー(アメリカ) ツィラタール シュバルツ(オーストリア) など |
有名な銘柄(日本) | ハーヴェストムーン シュバルツ(イクスピアリ) ベアレン シュバルツ(ベアレン醸造所) コエドブルワリー -漆黒-(コエドブルワリー) 明石麦酒 悠久の刻(明石ブルワリー) など |
ドイツの偉人に愛されたシュバルツ「ケストリッツァー」
現在でも作られているシュバルツの代表銘柄「ケストリッツァー」は、ドイツ中部東にあるバート・ケストリッツという村で、1543年に生まれました。現在は醸造所が大手のピットブルガー社の傘下に入って販路が広がり、比較的気軽に手に入れられるようになっています。
ケストリッツァーは、かの文豪ゲーテ(ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)がこよなく愛したビールで、朝から大きなグラスでビールを飲むこともあったようです。また、ドイツ帝国を統一した「鉄血宰相」ことオットー・フォン・ビスマルクも絶賛しており、「優雅な味わいで、ビールの中の貴族と言える」とまで評しています。
ドイツ北部にある大規模工業都市クルムバッハにある、モンヒスホーフ醸造所もシュバルツで有名で、600年以上前からビールを作っています。この醸造所の敷地内にはビアガーデンが併設された博物館があり、見学者にはビールが振る舞われます。
日本の「スタウト」>シュバルツ&スタウト
キレの良いミディアムなコクのシュバルツは、長年ピルスナーを愛飲してきた日本人にも受け入れやすい味であるためか、クラフトビールが普及する前から大手ビールメーカーで作られるようになっています。日本の夏にも楽しめるスッキリした味わいが受けたこと以外に、主力であるピルスナーと作り方や原料で共通する部分が多いことが、他のスタイルのビールより広がるのが早かった理由かもしれません。
ちなみに、日本では「ローストした麦芽を使った黒く濃いビール」をスタウトと銘打って販売しても良いというルールがあります。本来のスタウトは上面発酵のエールビールなのですが、日本の「スタウト」には下面発酵で作られたラガーの黒ビール、つまりシュバルツが含まれていることがあります。
例えば、サッポロビールの限定商品「エビス・スタウト クリーミートップ」は、下面発酵で作られたシュバルツでした。現在の「エビス プレミアムブラック」もシュバルツスタイルです。
キリンビールの「キリン スタウト」は2007年の発売当時はシュバルツでしたが、2013年のリニューアルを経て上面発酵に切り替えられ、本当のスタウトになっています。
同じ日本の「黒ビール」でも、見えない所で違いが生まれ、大きく変化し続けているのです。
次回は果実酒のような酸味を持つ、ビールとは思えないベルギービール「フランダース・エール」を紹介します。