フランダース・エール(Flanders Ale)は、ベルギー西部のフランダース地方で作られているエールビールです。フランダース地方はオランダ南部・ベルギー西部・フランス北部にかけての地域で、英語風の呼び方ならフランダース、フランス語ならフランドル、オランダ語ならフランデレンとなります。
ここで作られるエールビールは赤みがかかった色と酸っぱさを持ち、ベリーの果実酒のような見た目と味をしています。
フランダース地方西部では、赤ワインのような色合いをしたレッドエール、東部では褐色の麦芽を使ったブラウンエールが主流です。ただ、西と東はそれほど離れているわけではなく、すぐに見てわかるほど色が違うわけでもないので、大体の傾向ととらえると良いでしょう。
フランダース・エールの特徴
このフランダース・エールの最大の特徴は「酸っぱい」ということ。銘柄によって強烈な物からほのかな物までいろいろですが、はっきりとした酸味が必ずあります。
酸味だけでなく甘みもある一方、ホップの香りは全くなく、苦みもほとんどありません。香りはサクランボやレーズン、スモモ、柑橘類のようであると表現されています。
酸っぱさと果実のような香りに加えて色も赤いので、まるでフランボワーズ(ラズベリー)で作った果実酒ではないかと錯覚するほどです。
実際にベルギーでは、ビールにサクランボやラズベリーを漬け込んで作る「クリークビール」などの赤く酸っぱいフルーツビールがあります。しかし、フランダース・エールには果実は一切使われておらず、原料は普通のビールと同じ、水と麦芽、ホップ(場合によっては小麦と糖類)だけです。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | フランダース地方(ベルギー) |
発酵の種類 | 上面発酵(エール) |
色 | ルビーレッド~濃い銅色(レッドエール) 濃い銅色~茶色(ブラウンエール) |
アルコール度数 | 4.8~5.2% |
麦、ホップ以外の原料 | 小麦、糖類が使われることがある |
最適温度 | 9~13度 |
有名な銘柄(海外) | ローデンバッハ(ベルギー) リーフマンス・ガウデンバンド(ベルギー) デュシェス・ド・ブルゴーニュ(ベルギー) ヴァンデルギンスト・アウトブライン(ベルギー) など |
フランダース・エールの味の秘密
フランダース・エールでは、麦芽には特殊な赤い種類の物が使われており、これが独特な色の源になっています。赤いといってもわずかに赤っぽい色が入っているだけなのですが、重要な要素です。使用する酵母も、発酵の際にフルーツのような香りを出す副産物を生成する特殊な種類のものです。
主発酵が終わるとオーク製の樽に入れて1年半~2年の長期熟成を行います。このとき、樽の内部に生息している乳酸菌による発酵が行われ、すっぱい味の元になる乳酸が加わります。さらに、樽に含まれているタンニンがビールに混ざり、ワインのような赤みがさらに深くなっていきます。
特別な麦芽と酵母、オーク樽による長い熟成により、世界でも他に例を見ない実酒のようなビールが出来上がります。より味に深みを持たせるため、瓶の中でも発酵と熟成が進む状態で出荷されます。
完成したフランダース・エールは、ウイスキーのシングルモルトのようにそのまま出荷されることもありますが、他のビールとブレンドされることもあります。例えば、デュシェス・ド・ブルゴーニュという銘柄は、18カ月熟成のビールと8カ月熟成の若ビールをブレンドした物です。
これ以外にも、ブラウンエールとレッドエールをしたものや、自然発酵ビールのランビック(同じように酸っぱい)とブレンドした物、クリークのように果実や果汁を加えてさらに発酵させたものなど、非常に多様です。
酸っぱいビールは非常識?
日本人にとっては「ビールが酸っぱい」というのはかなり変に思えるかもしれませんが、ビールの歴史や世界から見て、酸っぱいビールというのは実のところそれほど特殊というわけではありません。フランダース・エール以外にも、自然の酵母を取り込んで作るランビック、ベルリンの白ビール「ベルリーナ・ヴァイセ」など、いろいろあります。世界的に有名なスタウトの「ギネス」も、個性を引き立たせるためにわずかな酸味を有しています。
ビールとは苦くさっぱりした物であるという偏見を持っていると受け入れがたく感じてしまいますが、また別の種類の存在のお酒としてみると非常に美味です。
赤い色合いと果実の香りと酸味はとてもおしゃれで、ワインが好きな人には良く受けるかもしれません。苦みや渋みがない分だけ、赤ワインよりも飲みやすいほどです。
フランダース・エールの種類
フランダース・エールはブレンドや製造時に使う酵母によって分類をするのはとてもややこしいので、レッドエールとブラウンエールの大まかな違いだけを説明します。
フランダース・レッドエール
フランダース・レッドエールはフランダース地方西側に多いタイプで、その名の通り鮮烈な赤色をしています。特に赤い物はルビー色と表現できそうなほどで、炭酸が無ければビールとは思えない色合いです。
酸っぱい味わいとベリーの香りに加えて、オーク樽から与えられた木の香りがするのが特徴で、何とも言えない特徴的な味わいに仕上がっています。9度ぐらいに軽く冷やして飲むと、果実酒のようなさわやかさを楽しむことが出来ます。
フランダース・ブラウンエール
フランダース・ブラウンエールは東側に多いタイプで、ちょうど紅茶のような色合いをしています。他の濃色系のようにローストした麦芽を使っているわけではなく、麦汁を煮沸して殺菌するときに、長時間火を入れて煮詰めることで生み出されています。こうすると麦芽をローストした時と同じように糖がカラメル化し、レッドエールよりも色が濃く、麦芽の甘みが強いビールとなるのです。甘みがあるとはいえ酸っぱさが無くなるわけではなく、それぞれが組み合わさって非常に印象的な味わいに仕上がっています。
次回はドイツのデュッセルドルフが生んだ、ケルシュの親戚「アルト」を紹介します。