アルト:デュッセルドルフ生まれの低温熟成ビール

アルト:デュッセルドルフ生まれの低温熟成ビール

アルト(Alt)はドイツ西部のデュッセルドルフを中心とする、ニーダーライン地方で作られているビールです。
アルトは1838年に、デュッセルドルフのシューマッハ醸造所によって開発されました。当時はミュンヘンで生まれたラガービールが、冷蔵庫の発達と共にドイツ全土に広がりつつある時代でした。冷蔵庫で温度管理ができれば、ラガービールは季節を問わず安定した品質で大量生産でき、劣化させずに輸送も可能です。

しかし、シューマッハは新しいラガーではなく、あえて伝統的なエールの酵母を使ったビールを開発し、ドイツ語で「古い」を意味する「アルト」と名付けました。
イギリスには1年以上の長期熟成で作る「オールドエール」がありますが、アルトはビール自体が古いのではなく、「古い手法」で作ったビールである点が異なっています。

アルト

アルトの作り方

アルトを作るときは、1次発酵でできた若ビールを樽に移し、麦汁を追加して1か月以上の時間をかけて涼しい環境下で熟成を行います。
通常は上面発酵の酵母は、高い温度で短期間に発酵と熟成を急速に行い、できたエールビールは濃く複雑な香りを持つようになります。しかし、アルトではあえて涼しい場所で時間をかけて熟成を行わせることで、エールの芳醇な香りと、ラガーのようなまろやかさと切れの良さの両方を持たせたビールとして出来上がります。

アルトの特徴

アルトは色が濃いためにどっしりとした印象がありますが、とてもクリーンでみずみずしい味を持っています。良く利いたホップの苦みと、麦芽の甘みが調和し、コクのあるまろやかさと後味の良さの両方を兼ね備えた、バランスの良い味わいです。
ソーセージを始めとする肉料理との相性が抜群ですが、それ以外にもカラメルソースを使ったお菓子やアップルパイなどともよく合います。

同様の低温・長期熟成で作るドイツビールには、ケルンで9世紀から作られている「ケルシュ」があります。ケルシュはピルスナーと同じように黄金色でキレの良い味をしています。アルトは琥珀色で、ケルシュよりもとろりとした甘みのある味が特徴です。
両方とも後味がさっぱりして、日本の気候にもよく合っているので、日本のクラフトビールメーカーでも、ケルシュとアルトの両方を作っている所が数多くあります。

項目詳細
原産地デュッセルドルフ(ドイツ)
発酵の種類上面発酵(エール)
銅色~茶色
アルコール度数4.3~5%
麦、ホップ以外の原料無し(小麦麦芽を使う物もある)
最適温度9度
有名な銘柄(海外)シューマッハ アルト(ドイツ)
ボルテン アルト(ドイツ)
ツム・ユーリゲ アルト(ドイツ)
ディーベルス アルトビア(ドイツ)
など
有名な銘柄(日本)田沢湖ビール アルト(田沢湖ビール)
べアレンアルト(ベアレン)
京都麦酒 アルト(黄桜)
軽井沢ブルワリー 赤ビール(軽井沢ブルワリー)
など

アルトの味

アルトのサーバーは熟成樽

アルトのサーバーは熟成樽

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アルトの本場であるデュッセルドルフには飲食店を併設した醸造所が5つあり、出来立て直送のアルトが飲めるようになっています。
これらの飲食店では、ビールは熟成用の樽のまま運び入れられており、樽に直接取り付けられた蛇口からグラスに注いで提供されます。現代の一般的なビールは、金属のタンクから炭酸ガスや窒素ガスの圧力で押し出されるようになっていますが、伝統的なアルトの提供方法なら、ビールに溶け込むのは発酵で生まれた炭酸ガスだけになり、とても細かく口当たりの良い泡が立ちます。

デュッセルドルフでのアルトの飲み方

デュッセルドルフでのアルトの飲み方

アルトを飲む際に使われているのは、容量200mlの円柱形をした細長いグラスで、ウエイターがお盆にいくつも乗せて店内を巡回しています。
グラスが空になったら、合図をするとすぐに新しいものと取り換えてくれると共に、コースターに鉛筆で線が一本ずつ書かれていきます。会計の際にはこのコースターが伝票代わりとなる仕組みです。グラスにコースターでふたをすると、「もう結構」という意味です。

アルトとケルシュのライバル関係

アルトとケルシュのライバル関係

デュッセルドルフでアルトを飲むときの仕組みは、ケルンでケルシュを飲むときとほとんど同じものになっています。細長いグラスと、わんこそばのようなお代わり制度、伝票代わりのコースターは共通の要素です。
ケルンとデュッセルドルフはともにライン川沿いにあり、鉄道なら20分程度で行き来できるお隣同士です。それゆえに強いライバル意識を持っており、カーニバルのパレードやサッカーなど、様々なシーンで張り合っています。ビールもそのうちの一つで、ケルンにはアルトは売っておらず、デュッセルドルフではケルシュは見つけられません。
それぞれの都市に住む人は相手のビールは飲まないのですが、観光客にしてみれば近い場所においしいビールの本場が二つもあるので、都市をまたいではしご酒がしたくなる地域です。

デュッセルドルフ以外でアルトは飲めるのか?

デュッセルドルフ以外でアルトは飲めるのか?

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本場の醸造所で作られるアルトは保存がきかない物がほとんどで、他の場所ではなかなか手に入りません。しかし、現在では、デュッセルドルフ以外でもアルトを作っているメーカーも多くなり、保存方法の工夫によって流通範囲も広くなっているので、アルトを手に入れること自体は難しくなくなっています。デュッセルドルフの老舗醸造所の一つであるツム・ユーリゲは、日本でも手に入れやすい本場物の一つです。
しかし、新鮮なアルトを飲むには、デュッセルドルフに行くのが一番です。機会があれば、ぜひ訪れて飲み歩きをしてみましょう。

次回はイギリスのパブにおける定番ビール、ビターエールを紹介します。

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