デュッベル:修道院で作られる濃厚高アルコールビール

デュッベル:修道院で作られる濃厚高アルコールビール

デュッベル(Dubbel)とはベルギーにおいて、修道院やその技法を受け継ぐ醸造所で製造されている高アルコールビールです。デュッベルとはオランダ語で「2倍」の意味で、英語の「Double(ダブル)」と同じです。

認定された8か所の修道院で作られるビールは「トラピスト」、その手法を受け継いで作られる物は「アビィ」と呼ばれており、デュッベルも「トラピスト(アビィ)・デュッベルと呼ばれることもあります。アメリカなどでも作られていますが、基本的にはベルギーのトラピストやアビィのものが正統派です。

ベルジャン・デュッベル

何が「ダブル」なのか

何がダブルなのか

デュッベルの一体何がダブルなのかといえば、コクとアルコール度数です。
ビールのコクを表すものに、「初期比重」という値があります。これは、発酵前の麦汁の濃さ(主に糖の量に左右される)を示すもので、高ければそれだけ濃く、度数も高いビールになります。

修道院で作られるビールでは、内部でのみ消費される「シングル」の初期比重は1.03なのに対し、デュッベルでは1.06で、それだけ濃く、糖から生まれるアルコールの量も多くなります。二次発酵の際には溶かした氷砂糖を添加し、度数がさらに高くなるように調整がされます。

同じように修道院で作られるものには「トリペル」があり、こちらは初期比重が1.09、度数が7~10%と一段階強くなっています。あまり知られてはいないものの、10%を超える「クアドルペル」なるスタイルも存在します。

濃さや比重が2倍、3倍ではないのは、倍数ではなく段階を意味しているのだと考えられます。一説には、昔は文字を読めなかった人のために、度数の高さをX、XX、XXXと表示していたことが由来ともされています。

項目詳細
原産地ウェストマール(ベルギー)
発酵の種類上面発酵(エール)
濃い琥珀色~茶色
アルコール度数6~7.5%
麦、ホップ以外の原料糖類(氷砂糖)
最適温度10~13度(15~18度とされることも)
有名な銘柄(海外)ウェストマール デュッベル(ベルギー)
ロシュフォール6(ベルギー)
グリムベルゲン デュッベル(ベルギー)
アラガシュ デュッベル(アメリカ)
など

ベルジャン・デュッベルの味

デュッベルの歴史

デュッベルの歴史

このビールが生まれたのは、ベルギーのアントワープの北西にあるカトリック厳律シトー会のウェストマール修道院(正式には「私らの貴婦人・イエスの御心修道院」)です。ヨーロッパでは安全な飲み水の確保が難しく、必然的にビールやワインが主要な飲み物になりました(お茶が広がったのは17世紀以降)。

修道院でもそれは同じで、パンはイエスの肉、ワインは血という教えにより、液体のパンであるビールも神聖な飲み物として扱われます。特に厳律シトー会では毎年40日間の断食をしつつ労働に励む戒律があり、栄養が得られる唯一の手段がビールであったので、まさに修道士たちの生命線でした。

1794年に建てられたウェストマール修道院では1836年から自家醸造が始まり、地元限定で少量のビールを販売するようになりました。この頃のビールは度数が3%程度で、明るい金色の甘いビールであったようです。
やがて1920年代になると本格的な生産を始め、さらには近代的な設備を導入し、濃色の「デュッベル」と、金色でさらに高アルコールの「トリペル」が生み出されました。後にこのスタイルは他の修道院や醸造所でも真似され、スタンダードとなりました。

デュッベルの特徴

デュッベルの特徴

濃い琥珀色をした外見の通り、しっかりとローストされた麦芽によって生み出される、ナッツやチョコレートのようなこってりとした甘い風味が特徴です。香りや味は麦芽の方が強いので、ホップ由来の苦みはほとんど感じられません。また、泡が非常に細かくて良く立ち、ムースのようであるとも表現されます。ダブルというだけあってしっかりとしたコクがあるものの、刺激は少なく飲みやすい味わいです。

濃色系のビールであるため、同じような濃い料理との相性がピッタリです。グレーヴィーソースのステーキ、あるいは焼き鳥のような甘めのソースを使った肉料理、またはチョコレートケーキのようなデザートとよく合います。
赤ワインが好きな人にも受け入れやすい味で、合わせる料理も似た分野のものになります。このビールの温度は香りと甘みが楽しめる、高めの13度で。冬場ならもっとぬるめの15度から18度にして、体を温めるビールとして飲むのもよさそうです。

次回はダブルよりもさらに高アルコールなベルギービール「トリペル」を紹介します。

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