トリペル(Tripel)はベルギーやオランダの修道院でデュッベルと共に作られている、高アルコールビールです。名前はオランダ語で「3倍」の意味で、デュッベル(Dubbel=2倍)より1段階「強い」ことを示しています。英語で「トリプル」と呼ばれることもあります。
デュッベルは度数が6~7.5%と高めのビールですが、トリペルでは7~10%と、もはやビールとは思えないぐらいの強さになっています。
また、濃さを決定する初期比重(発酵前の麦汁濃度)も高く、普通のビールが1.04~1.05、デュッベルが1.06であるのに対し、トリペルでは1.09と、コクの強さでも上を行きます。
トリペルの特徴
それだけ強いのだからさぞかし強烈な外見をしているのかと思いきや、色は薄い金色から赤みがかかった金色と、とてもきれいなビールです。濃い褐色のデュッベルに比べると、逆にあっさりしていそうな見た目をしています。
香りにはオレンジやハーブに似た甘さを含み、滑らかなのど越しと相まって、酸味の無いワインのような味です。しかし、その中にもアルコールの辛さがあり、日本酒でいうところの辛口な味わいが残ります。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | ウェストマール(ベルギー) |
発酵の種類 | 上面発酵(エール) |
色 | 淡い金色~薄い琥珀色 |
アルコール度数 | 7~10% |
麦、ホップ以外の原料 | 糖類(氷砂糖) |
最適温度 | 10~13度 |
有名な銘柄(海外) | ウェストマール トリペル(ベルギー) マレッツ トリペル(ベルギー) セント・ベルナルデュス トリペル(ベルギー) ラ・トラッぺ トリペル(オランダ) など |
トリペルの飲み方
飲むときの温度を6~10度ぐらいにすると、シャープでビールらしい味わいになりますが、13度以上にすればより甘さが強調されてワイン的な味わいへと変わっていきます。非常に細かい泡が立つので、最初は冷やし気味にして泡を楽しみ、ゆっくりと時間をかけて飲みながら、味の変化を見ていきましょう。
度数が高いトラピストビールは、より長い時間楽しめるように、口が広いゴブレット型のグラスを使うのが特徴です。
料理と合わせるときは、ローストチキンなど色の薄いタイプの肉料理、あるいはクリームブリュレのようなこってり系の生クリームのお菓子が良いでしょう。
トリペルの歴史
ヨーロッパでは新鮮な生水が飲める場所が少なかったので、自然とワインやビールを作って普段の飲み物にするようになりました。修道院でも液体のパン(パンはキリストの肉の象徴)であるビールは、神聖であるとともに栄養価に優れた重要な飲み物でした。
現在のトリペルの基礎を作ったのは、デュッベルと同様に、ベルギーのウェストマールにあるカトリック厳律シトー会「私らの貴婦人・イエスの御心修道院」、通称ウェストマール修道院です。
1930年代からウェストマール修道院では強いビールを時々作って販売しており、1956年にレシピを調整して「トリペル」と名付け、広く売り出しました。当初は暗い色合いでしたが、ベルギーでも金色のピルスナーが売れ出したので、対抗するためにトリペルも明るい色合いにされました。他の修道院もこれに追随したことで、現在は基本的にデュッベル=濃色、トリペル=淡色となっています。
ダブルやトリプルがあるならシングルもある
デュッベル(ダブル)、トリペル(トリプル)があるなら、当然エンケル(Enkel=シングル)と呼ばれるビールも存在します。
エンケルは各修道院のデュベルやトリペルの基礎となった、1段階弱いベーシックなビールです。現在は修道院のビールではエンケルやシングルの名は使われず、それぞれ独自の名前で呼んでいます。
例えばコニングスホーヴェン修道院のブランド「ラ・トラッペ」では、シングルにあたるものは「ブロンド」、ベネジクトゥス修道院のアヘルでは「5」、サン・レミ修道院のロシュフォールでは「6」という名前が付けられています。
本物のシングル「父のビール」
修道院では製品とは別に、Patersbie=Fathers Beer、父(なる神)のビールと呼ばれるエンケルのビールが作られています。このビールは院内での食事用(お代わりは自由)で、度数は低めとなっています。いくらお酒に強いベルギー人といえども、さすがに度数が7~10%のビールを、修道院の食事用として飲むことはできません。デュッベルやトリペルはあくまで販売用であり、自家消費用は別に用意してあるということです。これらのビールは市場に流通していないことも多く、希少価値がかなり高いのも特徴です。
例を挙げると、ウェストマールの「エクストラ」は度数4.8で、金色でホップが利いた普通のビールです。一般には流通しないので、飲むには修道院に併設されたカフェを訪れる以外の方法はありません。
オルヴァル修道院の「オルヴァル・グリーン」も3.5%と度数が低く、こちらも修道院併設のカフェでしか飲むことが出来ません。
ビール好きなら、一度訪れて1~3まで全て制覇したくなります。
第4のビール「クアドルペル(Quadrupel)」
1から3までがあるなら4も存在します。「ラ・トラッペ クアドルペル」といい、度数が10%でトリペルの8%より1段階上のためにこの名前が付けられました。ただし、クアドルペルを確立されたスタイルとして認めているところは少なく、他の修道院でもトリペル以上のビールは作っていません。
キリスト教には「父なる神」「子(イエス)」「精霊」の三位一体の教えがあるので、ビールが(父なる神であるビールの)エンケル、デュッベル、トリペルの3バージョンであることは、修道院にとって重要なことであるのかもしれません。
次回はドイツの「濃い」ビール、デュンケルを紹介します。