バーレイワイン(Barley Wine)とは、300年ほど前からイギリスで作られている高アルコールビールです。バーレイとは大麦のことで、バーレイワインの名はワインの如き芳醇な香りと高いアルコール度数を持つビールであることを意味します。一説には、ブドウが育ちにくい気候のイギリスにおいて、ワインに対抗できるお酒をビールで作り出そうとしたことで生まれたともいわれています。
この名前が使われ出したのは19世紀末から20世紀初頭に入ってからで、それまではオールドエール、ストックエールと呼ばれるスタイルの中に含まれていました。
強いて言うならば、オールドエールよりもバーレイワインの方がアルコール度数が高く、香りや味がより濃くワインに近いといえます。ただ、人によってはこれらの間に明確な区別はなく、バーレイワインはオールドエールの一部に過ぎないとする人もいます。
バーレイワインの特徴
バーレイワインの特徴は、とにかく濃厚で豊潤なところです。
まず、アルコール度数は8~12%とまさにワイン並みです。アルコール度数が高いビールを作るには、熟成の途中で砂糖を追加する方法と、最初から非常に高く濃い糖度の麦汁を使う方法があります。ベルギーのストロングエールなどでは前者、バーレイワインでは後者の方法が使われています。
糖度が高く濃い麦汁を作るためにバーレイワインでは通常の2~3倍の麦芽を使用し、味の濃さやアルコール度数の高さを決める麦汁の初期比重は1.9~1.12と、通常のビールが1.04~1.05であるのに比べると段違いの域にあります。そのため、まるで粘性があるかのようなとろりとした舌触りを持っています。
最も糖度が高い麦汁は、最初に絞り出される一番麦汁です。通常は二番麦汁とブレンドすることでビールの味や糖度を調整しますが、バーレイワインではあえて一番麦汁のみを使用しています。
これだけ多量の糖を酵母がアルコールに変えるには時間がかかるので、バーレイワインではとても長い熟成期間を必要とします。通常のビールの熟成期間は、5日からせいぜい数十日程度ですが、それに比べバーレイワインでは半年以上、時には数年に及ぶ熟成期間を経て作り出されます。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | イングランド |
発酵の種類 | 上面発酵(エール) |
色 | 銅色~濃い茶色 |
アルコール度数 | 8~12% |
麦、ホップ以外の原料 | 無し |
最適温度 | 13度 |
有名な銘柄(海外) | J.W.リー ヴィンテージ・ハーヴェスト・エール(イギリス) マザー・オブ・オール・ストームズ(イギリス) アンカー オールドフォグボーン(アメリカ) ストーン バーボンバレルエイジド アロガント ・バスタード(アメリカ) など |
有名な銘柄(日本) | エル・ディアブロ(サンクトガーレン) カルミナ(飛騨高山麦酒) 英国古酒 ハレの日仙人(ヤッホーブルーイング) スーパーヴィンテージ(博石館ビール) など |
バーレイワインの香りと味
長期間熟成の間に酵母が生産する副産物は、まるでドライフルーツのような甘く濃厚な香りを作り出します。一部の製品はワインの名に恥じないレーズンに似た香りまで持つようになるほどです。更に、熟成に使う木樽の香りも染み込み、出来上がったバーレイワインはまるで古いポートワインかシェリー酒、紹興酒のような香りを持つにいたります。銘柄によっては、ワインやバーボンウイスキーなど、他の酒の熟成に使用していたものを利用することで、味や香りにさらなる深みを与えるべく工夫がされています。
長い熟成期間の間に変質してしまわないように、ホップも通常の5~6倍もの量が使われています。熟成している間にホップの香りは薄まりますが、苦みはしっかりと残り、複雑な香りや味とマッチして、より「濃いお酒」らしい風味を作り出すのに一役買っています。
バーレイワインの飲み方
バーレイワインは普通のビールとしてではなく、ブランデーなどと同じように飲む方が良いお酒です。
香りを立たせるためにも温度は10~13度程度の常温に近いぐらいにしましょう。最適なグラスはチューリップ型と呼ばれるタイプの足つきグラスで、手に包んで体温で温めながら、立ち上る香りを楽しみ、少しずつ口に運ぶ飲み方がお勧めです。
注ぐときもグラスの縁一杯までではなく、半分ぐらいにして香りが充満できるスペースを作ってやるようにしましょう。
仮に食事の際に一緒に飲むなら、合わせる料理はワインに合うタイプのものがよさそうです。牛タンや牛頬肉など、軟らかく濃厚な味付けができる物がお勧めです。牛頬肉の赤ワイン煮込みは、料理でブドウのワイン、グラスで麦のワインと、非常に豪華に楽しめます。
「秘蔵のビール」にバーレイワインを
バーレイワインは通常のビールに比べると、同じ量を作るのにも多くの麦芽とホップを使用する贅沢なビールです。しかも長期の熟成を必要とするため、醸造所にとっては負担が大きく、採算がとれるようになるまではかなりの時間を要します。そのために、祝い事の記念として仕込まれる特別な物として扱われることもあります。
日本の地ビール製造会社で作っている所はあまり多くなく、カタログに載っていても期間・数量限定品であることも普通です。当然ながら価格もかなりのものです。
しかし、それだけの価値があるビールでもあるので、特別な時のためにとっておくことも一興です。
バーレイワインは瓶詰めの際に酵母が濾過されず、瓶の中でも発酵と熟成が進むようになっています。買ってから2年、3年と寝かせておけば、自分だけのビンテージビールに仕上がります。
普段呑みとは違う、秘蔵のワイン、秘蔵の焼酎ならぬ「秘蔵のビール」としてストックしておきましょう。
バーレイワインはビールが気楽にぐいぐいといくだけではなく、高級ワインにも匹敵するポテンシャルを持つ酒である証拠を示してくれる存在です。
次回は日本の伝統と欧州の技術の合作「日本酒酵母ビール」を紹介します。