ボック(Bock)は17世紀ごろから南ドイツのミュンヘンで作り出されたビールです。
原型となったビールは、北ドイツにあるアインベックという町で、14~15世紀ごろから作られていた、高アルコールビールです。
ボックの歴史
アインベックは中世後期において、バルト海沿岸の貿易を独占して、ヨーロッパ北部の経済を支配していたハンザ同盟に加わっていました。良質な軟水が豊富な都市で、現在でも高品質なビールが作れるビール醸造の町として知られています。
ハンザ同盟を通じて、北はスウェーデンやロシア、南はオーストリアに至るまで、世界各国に輸出するため、アインベックのビールは長距離の輸送に耐えられるように、アルコール度数が高めに作られていました。
17世紀に入ると、バイエルン大公マキシミリアン1世が、アインベックから(強引に)醸造家のエリアル・ピヒラーをミュンヘンにあるホフブロイ宮廷醸造所に呼び寄せました。当時はミュンヘンのビールは質が低く、ビール醸造の町アインベックの技術を取り込もうとしたためです。
当時のミュンヘンでは、新しく開発されたラガービールが人気を博していました。元々のアインベックのビールは上面発酵で作るエールだったのですが、ラガー酵母で同じ手法を用いてビールを作ったところ、高い人気を得るようになりました。
ボックの名前の由来
新しく作られたアインベック風ビールは、バイエルン訛りで「アインボック」と発音され、それが縮まってボックと呼ばれるようなったと言われています。
また、ボックには「雄ヤギ」という意味があり、雄ヤギのように力強いビールであるという意味も込められているとされています。実際、ラベルにヤギの絵がかいてあるボックも多数あります。
ボックの特徴
ボックはローストした麦芽を使った、いわゆる濃色ビール系です。アルコール度数を高めるために麦汁を濃い目に作っているので、ローストした麦芽の香りと相まって、非常に濃厚な印象を与えます。ドイツの誇る黒ビールのシュバルツがシャープな味であるとすれば、ボックはどっしりとしたパンチの利いた味です。
ローストした麦芽の香りは、カラメルというよりはトーストやナッツに近い、より香ばしさが強い印象があります。ホップの香りや苦みは弱めで、わずかに感じられるか、あるいはほとんどないレベルになっています。
夏よりも冬向けのビールで、グリルした肉との相性が抜群です。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | ミュンヘン(ドイツ) |
発酵の種類 | 下面発酵(ラガー) |
色 | 濃い琥珀色~深い茶色 (ヘレスボックは薄い麦わら色~濃い金色) |
アルコール度数 | 6~8% |
麦、ホップ以外の原料 | 無し |
最適温度 | 9度 |
有名な銘柄(海外) | アウェルデンブルガー アッサムボック(ドイツ) エク28(ドイツ) ホフブロイ マイボック(ドイツ) アンカー ボック(アメリカ) など |
有名な銘柄(日本) | 八ヶ岳地ビールタッチダウン ロックボック 会津ビール ボック いわて蔵ビール ヴァイツェンボック 富士桜高原 さくらボック など |
ボックの種類
トラディショナル・ボック
トラディショナル(古典的、伝統的)・ボックは、最初に作られた時の原型に近いタイプで、ボックの基本型です。単純にボックといえばトラディショナル・ボックを指すようです。
ヘレスボック(マイボック)
ローストしていない通常の淡色麦芽(ペールモルト)だけで作られたボックです。ヘレスはドイツ語で「明るい」という意味で、名前の通り明るい金色をしています。マイ(Mai)は5月という意味で、冬の間に熟成させて春に出荷したことに由来します。
見た目は明るいですが、ボックなので味は濃厚などっしり型です。ロースト麦芽の香りはなく、より麦芽の甘みが強く出ています。飲んだ後にわずかに苦みとフルーティーさが残ります。
ドッペルボック
ミュンヘンのミニモ修道院で開発されたボックです。ドッペルはドイツ語で2倍、2重の意味です。英語風にダブルボックと呼ばれることもあります。
修道院では断食を行う期間があり、食事がとれない代わりに「液体のパン」であるビールで栄養を補います。十分なアミノ酸やミネラル分が補給できるように、麦芽を多く使うことで作られたことからドッペルの名前が付きました。
麦汁の濃度があげられたことでコクが強くなるとともに、アルコール分も高くなり、8%以上、時には11%にもなります。麦芽は強めにローストされているので、トラディショナル・ボックよりも色がやや濃い目で、黒に近い物もあります。
アイスボック
アイスボックはドッペルボックを凍らせることで、さらにアルコールを高めた物です。開発したのはクルムバッハにあるライヘルブロイ醸造所で、冬に若い職人がビール樽を外に置いたまま忘れて帰ってしまったことから偶然出来上がったそうです。
凍らせると融点が水より低いアルコールは凍らず、氷を取り除いていくとアルコールが残って度数が高くなっていきます。氷結、除去、氷結と繰り返していくことで度数を高め、最終的に10~14%ぐらいまで高めます。
味は意外にも甘めでリキュールに似た飲み心地がします。
ヴァイツェンボック
ヴァイツェンはバイエルン州で作られる、小麦を使ったビールです。このヴァイツェンのように小麦をたくさん使いつつ、ボックとして高アルコールと濃厚な味を求めたものがヴァイツェンボックとなります。
ヴァイツェンの特徴であるバナナやクローブのような甘い香りと、ボックの力強いコクを併せ持つ、印象的なスタイルです。日本でもクラフトビールメーカーによって、冬の限定商品として製造されることがあります。
次回はイギリスの長期熟成ビール「オールドエール」を紹介します。