ラオホ(Rauch)とは、乾燥させる際に煙で燻した麦芽を使用して作られるビールです。名前はドイツ語で「煙」の意味で、ラオホビア(煙ビール)とも呼ばれます。燻した麦芽を使ったビール一般はスモークビールと呼ばれ、ラオホはその中でもオーク(ブナ)材を燃やした煙を使い、伝統的な方法で作られるビールを指します。
ラオホ以外のスモークビールでは、サクラ、ヒッコリー、リンゴなどの木も使われます。中にはスコッチ・ウイスキーで麦芽を乾燥させるときと同じように、ピート(泥炭)を使う物もあります。
香り、風味にともに煙たさを感じるのが最大の特徴です。
ラオホの作り方
ビールを作るときの大麦は、発芽させた後に熱を加えることで成長を止め、乾燥麦芽にしてから使われます。このときの焙燥と呼ばれる工程では、窯を使って乾煎りしたり、熱風を当てたりする方法が採られるので、麦芽には火や煙が直接当たらないようになっています。
上質な窯が普及する前の工業化以前はある程度の煙が当たることはあったのでしょうが、18世紀から19世紀にかけて焙燥用の窯が発展・普及したことで、麦芽が煙で燻されることは無くなりました。これによって煙の香りが付いたビールはほとんど姿を消しました。
しかし、バンベルクの醸造所の一部ではあえて乾燥窯を使わずに麦芽を剥き出しの火にかざし、燻しながら乾燥させる技法を受け継ぎ、ラオホとして現代まで残すことに成功しました。
ラオホの特徴
スモークした麦芽でどのようなビールを作るかによって、一口にラオホといっても違う種類のビールになります。色は金色から黒に近い褐色まであり、上面発酵(エール)の物も下面発酵(ラガー)のものもあります。
いずれの場合でも、共通するのはスモーキーな香りと風味です。グラスに鼻を近づけるとビールの香りに上乗せするように煙の香りを感じることが出来ます。
飲んだときには煙の風味がさらに顕著になりますが、煙草のタールや油煙のような不快さはなく、香りのよい木を焚いた時の軽い甘みがある自然な口当たりです。この燻製の風味とそれぞれのビールの個性が合わさることで、他にはない特別な味が生まれます。人によっては焦げ臭すぎると感じて受け入れられないことがありますが、好きな人は病みつきになる味です。
料理と一緒に嗜むのがお勧めのビールで、燻製つながりでスモークサーモンやスモークチーズ、貝の燻製油漬けなどとよく合います。燻製とは違いますが、カツオのたたきも素晴らしい組み合わせになります。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | バンベルク(ドイツ) |
発酵の種類 | 様々 |
色 | 様々 |
アルコール度数 | 4.5~7% |
麦、ホップ以外の原料 | 小麦麦芽を使うものがある |
最適温度 | スタイルによる |
有名な銘柄(海外) | シュレンケルラ ラオホ レントビア(ドイツ) カルデラ ラオホ ウルボック(アメリカ) アイゼンバーン ラオホビア(ブラジル) レッドオーク ラオホビア(オーストリア) など |
有名な銘柄(日本) | 田沢湖ビール ラオホ(田沢湖ビール) 富士桜高原麦酒 ラオホ(富士桜高原麦酒) べアレン ラオホ(べアレン醸造所) 猪苗代湖ビール ラオホ(猪苗代湖ビール) など |
ラオホの種類
ラオホはドイツ生まれのビールなので、バリエーションはドイツ発祥のスタイル由来のものが主体です。
ヴァイス・ラオホ
ヴァイスは小麦を使って作られるドイツの白いエールビールです。小麦の使用率は50%以上で、小麦麦芽の方も燻製されていることもあります。色は白がかった黄色から栗茶色で、小麦のたんぱく質が多く含まれているので、非常に濁っています。度数は4.9~5.6%です。
煙の香りだけでなく、ヴァイスビア特有の甘いバナナのような香りがはっきりと感じられます。
ヘレス・ラオホ
ヘレスはドイツ語で「明るい」という意味で、ピルスナーのような金色のラガービールです。ピルスナーはホップが利いているのに比べると、ヘレスは麦芽の軽くトーストしたような味と甘みが強い点が違いです。
ヘレス・ラオホではスモーキーさが軽く、麦芽の味わいが感じやすいあっさり目の味でになっています。
メルツェン・ラオホ
メルツェンはドイツ語で3月の意味で、3月に仕込んで夏から秋ごろに飲むラガービールです。10月のお祭りに飲み干すので、オクトーバーフェストとも呼ばれます。長持ちするように、アルコール度数が5~6.1%とやや高くなるように作られており、トーストしたような麦芽の甘みとそれを支えるはっきりしたホップの苦みが特徴です。
メルツェン・ラオホの場合、色は薄い金色から明るい茶色まで様々です。メルツェンの味と煙の風味がきれいに調和していることが大事とされています。
ボック・ラオホ
ボックは濃い麦汁を使って作る、高アルコールのラガービールです。ローストした麦芽を使っているので、色は暗い褐色から濃い焦茶色で、ロースト麦芽の風味が強めに感じられます。スモーキーな香りの強さは銘柄によって異なりますが、強い物はかなりパンチの利いた風味をしています。
グローズィスキー
グローズィスキー(Grodziskie)、あるいはグレッツァー(Graetzer)は、ポーランドの伝統的なスモークビールです。ラオホがブナを使うのに対し、こちらはカシを使って作る点が違いです。
小麦麦芽100%の小麦ビールで、エールビールの酵母を使いながら低温で長期熟成することで、さっぱりとした仕上がりになっています。アルコール度数も2.7~3.7%と低く、それなりに煙の香りがするのに飲みやすいビールです。
スモークポーター
イギリスの濃厚な黒ビールであるポーターを、スモークした麦芽を使って作ったものです。ローストした麦芽に由来するカラメルのような濃い味と、煙の風味がマッチしていることが必要条件であるとされています。色が少し薄いブラウン・ポーターの場合は香ばしさがない分だけ、少し癖が弱い味になるようです。
アルコール度数は5.1~8.9%と、いろいろな意味で濃いビールといえます。
これら以外にも、どんなスタイルのビールでもスモークビールにすることが出来ますが、良いビールとして作るには、燻製の香りと味を調和させる細かい調節が必要です。
かなり個性が強いために日本ではあまり見られませんが、富士桜高原麦酒や田沢湖ビールでは通年製造・販売しており、手に入れることは難しくありません。興味があったら取り寄せてみましょう。
次回は知られざるビール大国フランスの「ビエール・ド・ギャルド」を紹介します。