ビエール・ド・ギャルド(Biere de Garde)は、北フランスのベルギー国境地帯付近で古くから作られ続けている独自のエールビールです。
フランスといえばワインのイメージがありますが、実はフランスは「ヨーロッパの穀倉」と呼ばれるほどに大麦や小麦を多量に生産している国でもあります。そのためビール造りも盛んで、ビール生産量はヨーロッパでもトップ5、醸造所の数は世界で3位の隠れたビール大国です。
フランスの伝統ビールの歴史
ビエールはフランス語でビール、ギャルドは「守る」や「貯蔵する」という意味で、ビエール・ド・ギャルドで「貯蔵ビール」となります。
冷蔵技術が未発達で安全な水が手に入る前の時代においては、夏に生水を飲むのは危険であったため、ビールやワインなどのアルコール飲料が飲まれていました。しかし、小麦が取れない夏にビールを作ることはできないので、冬から春先にかけて仕込みを行い、夏の間まで貯蔵・熟成するスタイルのビールが誕生しました。
地下室などの安定した環境下で貯蔵し、夏の農作業の際にのどを潤すため、適宜取り出して飲む形で消費されていったようです。
ビエール・ド・ギャルドの特徴
元々、ビエール・ド・ギャルドは各家庭が自分たちの家で消費するために作っていたホームメイド品でした。現代まで残っている醸造所もその延長線上にあるため、醸造所ごとに異なる特徴を持ったビールを作っています。イギリスのペールエールに近い物もあれば、ベルギーの修道院で作られる高アルコールビールの「トリペル」に近い物、小麦を使ったホワイトエール風の物など、かなり多様です。
多くの場合、麦芽の香りと甘みが軽く感じられるとともに、長期熟成による革のような香りがわずかにするという特徴があります。ホップの苦みや香りは中程度から弱めで、独特の落ち着きのある雰囲気が持ち味です。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | 北フランス |
発酵の種類 | 上面発酵(エール) |
色 | 金色~明るい茶色 |
アルコール度数 | 4.4~8% |
麦、ホップ以外の原料 | 小麦を使うものがある |
最適温度 | 9度 |
有名な銘柄(海外) | アノステーケ・ブロンド(フランス) ランジェルス(フランス) ジャンラン・アンバー(フランス) シュティ・ブロンド(フランス) など |
有名な銘柄(日本) | ビエール・ド・雷電(オラホビール) ビエール・ド・ギャルド(軽井沢高原ビール) 信州ナチュラルビール ビエール・ド・ギャルド(ヤッホーブルーイング) など |
ベルギーの親戚「セゾン」
国境を隔てたベルギー北部でも、冬に作ってから貯蔵し、夏に飲む「セゾン」ビールが伝統的に作られています。こちらもホームメイド品の延長品であるため、醸造所ごとに多様な特徴を持っている所も同じです。
セゾンの場合は長期間の貯蔵中に腐らないようにするため、防腐剤としてホップが多めに使われることが多く、ビエール・ド・ギャルドに比べてホップの香りや苦みが際立っている点が違いといえます。
日本に上陸し始めたフランスビール
フランスでは地産地消の考えが強く、ビエール・ド・ギャルドの醸造所は他の地域や海外にビールを販売することには消極的でした。しかし、近年になって海外進出も始まり、2013年にF.B.JAPANよる国内販売開始を機に日本でも手に入るようになってきています。
また、フランスでも1970年代から登場した「新興」の醸造所によって、クラフトビールが造られるようになってきています。これらは「ビエール・アルチザナル(Biere Artisanale=職人芸のビール)」と呼ばれ、ここ5、6年で急激に人気が上昇しています。
これからビエール・ド・ギャルドが普及していけば、ビエール・アルチザナルも入るようになり、日本のビール業界はますますにぎわっていくかもしれません。
実は日本のクラフトビールメーカーでも、ビエール・ド・ギャルドを作っている所がいくつかありますが、多くは季節限定製品で通年製造はあまりされていません。
次回はスコットランド伝統のエールビール「スコティッシュエール」を紹介します。