ウィンナー・ラガー(Vienna Lager)は、19世紀にオーストリアの首都ウィーンで生み出されたラガービールです。ウィンナーは「ウィーンの」という意味で、ウィンナー・ソーセージやウィンナー・コーヒーと同様に、ウィーンの特産物であることを示しています。
ウィンナスタイル・ラガーや、英語風発音の「ヴィエナ」の名前で呼ばれることもあります。
ウィンナー・ラガーの歴史
このラガーが生まれたのは1841年で、当時のウィーンにおけるビール醸造の第一人者であったアントン・ドレハーでした。ドレハーはラガービールの開発に大いに貢献した人物です。
当初は、3月の冷たい水とまだ残っている氷を使うことから「メルツェン(ドイツ語で3月の意味)・ビール」と呼ばれていました。次第にドイツ語で貯蔵・倉庫などを意味する「ラガー」の名前が浸透し、ドレハーが作ったビールはウィンナー・ビールやウィンナー・タイプと呼ばれるようになりました。
ウィンナー・ラガーが発表された翌年には、チェコで今日のビール最大勢力となったピルスナーの始祖「ピルスナー・ウルケル」が生まれたことで、ラガー主力の座は奪われてしまったようです。それでも、ウィンナー・ラガーは高く評価され、ウィーンの品評会で金賞を取ったことで、ドレハーはオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世から騎士十字章を贈呈されています。また、パリの品評会のラガー部門で金賞を取るなど、確かな品質を有するビールであることを証明しています。
ウィンナー・ラガーの特徴
ウィンナー・ラガーの外見で真っ先に目を引くのが、赤に見えるような明るい褐色の色合いです。ウィンナー・ラガーの色が出るようにローストした麦芽は「ウィンナー・モルト」と呼ばれ、焦げ色を付けない普通の麦芽(ペールモルト)よりもわずかに高温で焙燥させることで作られます。
同じぐらいの色合いになるように作られたラガービールは「アンバー(琥珀)・ラガー」と分類されています。透き通っているものが多く、まさに琥珀のような見た目です。
味や香りは麦芽のそれが支配的で、ウィンナー・モルト由来のトーストのような香りがします。コクは中くらいで、濃すぎず・軽すぎず、ちょうどよいぐらいといったところです。
この辺りは、国境を接するドイツ南部の、麦芽の味を好む伝統を共有しているといえます。果実のようなフルーティーさは無く、ホップの苦みもやや弱めでありつつクリーンですっきりしています。外見は濃いですが、味には変わったクセが無く、万人向けの飲みやすいビールです。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | ウィーン(オーストリア) |
発酵の種類 | 下面発酵(ラガー) |
色 | 銅色~赤みがかかった褐色 |
アルコール度数 | 4.8~5.4% |
麦、ホップ以外の原料 | 無し |
最適温度 | 9度 |
有名な銘柄(海外) | ネグラ・モデロ(メキシコ) グレイト・レイクス エリオット・ネス(アメリカ) ドス・エクイス アンバー・ラガー(メキシコ) グスヴェルク ウィンナーラガー(オーストリア) など |
有名な銘柄(日本) | 欧州四大セレクション ウィンナー(サッポロ) ミツボシビール ウィンナスタイルラガー(盛田金しゃちビール) 梅錦ビール ウィンナラガー(梅錦山海) 霧島ビール ゴールデン(霧の蔵ブルワリー) など |
現在は北米が本場
文化の十字路といえるウィーンで生まれたウィンナー・ラガーですが、意外なことにヨーロッパでは比較的マイナーな存在です。どうやら翌年に登場したピルスナーにお株を奪われてしまったようです。
代わりに現代において、太平洋を隔てたアメリカ合衆国やメキシコといった北アメリカで大いに発展しています。19世紀後半にウィンナー・ラガーの知識を有したオーストリアの醸造家がメキシコに移住したことが、アメリカで広がる契機となりました。現代では、メキシコのグルーポ・モデロ社のネグラ・モデロ、アメリカのグレイト・レイクス社のエリオット・ネスなど、北アメリカで作られたものがメジャーです。
特に、ネグラ・モデロは日本でもかなり入手しやすく、評価も高い人気の逸品です。試してみましょう。
(ちなみにエリオット・ネスとは、禁酒法時代に、酒類取締局にて醸造所摘発に従事した捜査官の一人の名前です。ウィンナー・ラガーは「禁酒法以前のラガー」と呼ばれることがあるようで、それに掛けた皮肉と思われます)
次回はミュンヘンのビール祭りのためのビール、その名も「オクトーバーフェスト」、あるいは「メルツェン」について紹介していきます。