ビールを作る際には、主原料である麦とホップ以外にも個性を付けるために様々な副原料が使われます。そうした副原料として、果物を使ったものが「フルーツビール」、野菜を使ったものが「ベジタブルビール」です。
果物や野菜が使われることで、それらの香りや味がビールに反映されます。また、もとになるビールのスタイルとの組み合わせにより、色、味、香りのバリエーションは無数に上ります。
フルーツビールの本場はベルギーで、サクランボからカシス、パッションフルーツまで、多様なフルーツビールを見ることができます。また、台湾でもフルーツビールは人気で、毎年のように新製品が生み出されています。
ちなみに、日本でビールの副原料として使えるのは、米、コーンスターチ、糖類だけなので、果物や野菜を使ったビールは発泡酒の扱いになります。税金が安くなるので値段も抑えられていますが、果物の旬の関係から季節限定品が多いのが残念な所です。
果物や野菜はどうやって使うのか?
多くの場合、野菜や果物といった副原料は、でんぷんを糖に変える糖化のとき、麦汁を煮沸するときなどに使われます。香りや味、色が抽出されるとともに、糖分が発酵してアルコール度数や炭酸が強まり、ビールの性質そのものが大きく変化します。
果物の味や香りのどの要素をビールに付け加えるかによって、果物を皮ごと漬け込んだり、逆に果汁やジュースだけを混ぜたりするなどの工夫が施されます。単純にビールをジュースと混ぜただけではなく、本当に原料として果物や野菜を使用しているスタイルのビールです。
項目 | 詳細 |
---|---|
原産地 | 世界各地 |
発酵の種類 | 特に規定はない |
色 | 基になったビールの色と、使用したフルーツ、野菜の色を反映する |
アルコール度数 | 2.5~13% |
麦、ホップ以外の原料 | 各種フルーツ、野菜、スパイス、小麦など |
最適温度 | 7~9度 |
有名な銘柄(海外) | シップヤード スマッシュド・ブルーベリー(アメリカ) フライングドッグ ブラッドオレンジエール(アメリカ) サミュエル・スミス オーガニックストロベリー(イギリス) ウェルズ バナナ・ブレッド(イギリス) など |
有名な銘柄(日本) | 北海道麦酒酒造 フルーツブルーイングシリーズ(北海道麦酒酒造) サンクトガーレン 湘南ゴールド COEDO 紅赤(コエドブルワリー) 日本ビール醸造 レモンビール(日本ビール醸造) など |
どんな果物や野菜が使われる?
使われる果物や野菜は何でもよいのですが、果物は糖分が多く香りも高い物、野菜の場合は糖やでんぷんを多く含んでいる物が使われます。果物ではサクランボからブドウ、リンゴ、イチゴ、モモ、アンズ、メロンやスイカに至るまで、なんでも使われます。
野菜の場合はでんぷんや糖が豊富なカボチャ、サツマイモがメインです。ココナッツを使ったものも多く、品評会ではベジタブルビール扱いとなっています。
核果類(サクランボ、アンズ、モモ)
核果類は真ん中に大きな固い種が入っているタイプの果物です。糖分がたっぷりで香りも良いので、フルーツビールの材料として最もメジャーです。
なかでも有名なのが、ベルギーで作られる「クリーク」です。これは野生酵母を使って作るビール「ランビック」にサクランボを漬け込んで二次発酵させたもので、ルビーのような美しい色をしています。ランビックにモモを漬け込んだものは「ペシェ」と呼ばれます。
日本ではサクランボのビールに天童ビールの「聖桜桃」、網走ビールの「桜桃の雫」などがあります。モモのビールは宮下酒造の「独歩ビール ピーチピルス」、北海道麦酒酒造の「ピーチホワイトエール」などがあります。
ベリー類(ラズベリー、クランベリー、イチゴ、ジュニパー・ベリー)
ベリー類はサクランボや桃と同じぐらいに、フルーツビールの材料としてよく使われます。有名なものが、ランビックにラズベリーを漬け込んだ「フランボワーズ」です。多くのランビックの醸造所は、クリークと共にフランボワーズも製造しています。
意外にもイチゴを使ったビールも多く、日本ではブルーマスターの「あまおうノーブルスイート」「あまおうオートミールブラック」、那須高原ビールの「いちごエール」などが作られています。
リンゴ、ナシ
リンゴははちみつやシナモンなどと相性がいいので、一緒にビールに使われることもあります。シードルよりも酸味が弱く、甘みが強い味です。ナシでは甘みが強い洋ナシが使われます。リンゴを使ったビールの中でとくに有名なのが、青リンゴを使ったベルギーの「ニュートン」です。
日本では南信州ビールの「アップル・ホップ」、サンクトガーレンの「アップルシナモンエール」、北海道麦酒の「ペア・ラガー」「ハニーアップルエール」など、他の材料と組み合わせた製品が多く見られます。
柑橘類(レモン、オレンジ)
レモンやミカンなどの柑橘類を使ったビールは、果汁をブレンドして作るものが主体です。近年、日本で見られるようになったドイツの「ラードラー」は、レモン果汁を加えたビアカクテル風の飲み物で、キリンビールやべアレン醸造所などから販売されています。
日本では茨木で栽培されている福来(ふくれ)みかんを使った、常陸野ネストエールの「NEST だいだいエール」、ひでじビールの季節限定醸造ビール「宮崎日向夏ラガー」。ブルーマスターの「カボス&ハニー」など、他では手に入らない特産柑橘を使った製品を見ることができます。
ブドウ類(ブドウ、マスカット)
ブドウといえばワインですが、ビールに使えばとても甘いフルーツビールに仕上がります。
日本のフルーツビールの中ではかなりメジャーな部類に入り、湖畔の杜ビール「横手大沢葡萄ラガー」、鳴子温泉ブルワリー「山ぶどうエール」、サンクトガーレン「白ぶどうIPA」、伊勢角屋麦酒「ネルソンルビー」など、多数のブルワリーで作られています。
ペールエールやヴァイツェン以外に、苦みの強いIPAを基にしたものがあるなど、多様性が高いのが特徴です。
ナッツ類(ココナッツ、ヘーゼルナッツ)
日本ではココナッツもヘーゼルナッツもあまりなじみがないので、これらを使った製品は見られません。日本で手に入る外国のココナッツビールには、ベルギーの「モンゴゾ ココナッツ」、ハワイのマウイブルーイング「ココナッツポーター」などがあります。
甘く濃厚で、非常に印象的な味わいです。
カボチャ
実はカボチャはフィールドビールの材料としてメジャーなもので、ビールの品評会に使われるビアガイダンスでは、パンプキンビールが独立した項目で記載されています。アメリカでは人気で、ハロウィンの時の定番ビールとなっているようです。
ちょっとキワモノに思えますが、ほのかにカボチャの風味があるビールという雰囲気で、好き嫌いが分かれるような癖の強さはありません。
日本ではサントリーが「クラフトセレクト」シリーズで、短期間だけ限定販売していたことがあります。いわて蔵ビールの「かぼちゃエール」もありますが、あまりメジャーではなく、普及するかどうかは未知数です。
サツマイモ
麦や米と同じように、でんぷんが豊富な芋も良い材料になります。ジャガイモでは風味が今一つで使う意味があまりないので、基本的にはサツマイモが使われます。
日本では色が美しいベニイモを使ったものがメジャーで、コエドビールの「COEDO 紅赤」が有名です。このほか、ホッピーで有名なホッピービバレッジの「赤坂ルビンロート」、白波明治蔵「さつま芋ビール」、薩摩酒造「薩摩RED」など、意外といろいろな所で作られているビールです。
スッキリとした味わいに仕上がっている物が多く、ビールとして飲むよりもサワーに近い雰囲気のお酒です。
これら以外にも、マンゴーを使ったひでじビールの「マンゴー・ラガー」、パッションフルーツを使ったいわて蔵ビールの「パッション・エール」、パイナップルを使ったサンクトガーレンの「パイナップルエール」、メロンを使った北海道麦酒酒造の「メロンエール」など、まさに何でもありの世界です。
日本のビールがさらに多様化していく様子を感じさせてくれる製品が、今後も多数登場してくるでしょう。
次回は各種の唐辛子などのスパイス、ミントのようなハーブ、コーヒー、チョコレートを使ったビールを紹介していきます。