様々なビアグラスの特徴と、よく合うスタイルの組み合わせ:足つきグラス&ビアマグ編

様々なビアグラスの特徴と、よく合うスタイルの組み合わせ:足つきグラス&ビアマグ編

様々なビアグラスの特徴と、よく合うビアスタイルの組み合わせ:足つき型グラス&ジョッキ編

ビアグラスといえば、日本ではコップ型の形状をしている物が一般的です。しかし、実はワイングラスのような足つきグラスも世界では一般的で、世界的に見ればコップ型と足つき型が半々といった所です。国によっては、ビアグラス=足がついているものが常識になっている所も多く、専門店でそうした国のビールを注文すれば足つきのグラスで出してくれます。
コップ型のグラスと同様、こちらも形が多様で、軽くさわやかなビール用から、重厚な濃いビール用まで、コップ型とはまた違った形でビールの魅力を引き出します。

もう一つ日本でメジャーなビアグラスといえば、取っ手のついたジョッキです。自宅で使うよりは飲み屋の生ビール用という雰囲気で、夏のビアガーデンには付きものです。
ジョッキというと本来は注ぎ口のついた「水差し」の意味で、飲み物に使う取っ手付きの容器は「マグ」と呼ばれます。ビアマグは足つきグラスほど形がいろいろあるわけではありませんが、素材やサイズ、表面の装飾などで様々なバリエーションがあり、飲み屋によくあるガラス製から、装飾付きの高価なアンティークまで、見た目の違いはグラス以上の多様性を持っています。

チューリップグラス

チューリップグラス

チューリップの花のように先端が軽くすぼまった形状の足つきグラスです。ベルギーでビアグラスといえば、多くの場合この形状を指します。先端がすぼまった構造は、香りが閉じ込められるとともに、きれいな泡を保つ効果があります。

ベルギーの醸造所ではそれぞれのビールにふさわしい形状のグラスに、ブランド名を入れて専用グラスとして販売しています。その中で、チューリップ型は最も多く採用されている形状で、メーカーは自分たちのビールに一番適するように、同じチューリップ型でも大きさや形に違いを持たせています。

適するスタイル
ベルギービール各種(ベルジャン・ホワイト、セゾン、ストロングエール、デュッベル、トリペル)、ペールエール、IPA、スコッチエール、ビエール・ド・ギャルド

スニフター

スニフター

いわゆるブランデーグラスで、チューリップよりも丸く口が広い、ずんぐりとした形です。口のすぼまりは香りを閉じ込める効果を狙っています。ブランデーと同じように手で包むようにして持つことで、ビールに体温を伝えて温め、香りを立たせることが出来ます。
そのため、冷やして飲むタイプのビールには適しておらず、アルコール度数が7%を超えるような、強く香り高いビールのためのグラスです。

適するスタイル
ストロングエール、デュッベル、トリペル、フランダース・エール、オールドエール、バーレイワイン、スコッチエール、ボック(メイボック、ドッペルボック、アイスボック)、インペリアルスタウト

シスルグラス

シスルグラス

下が丸くて上が円錐形という、ちょっと変わった見た目の足つきグラスです。シスル(Thistle)とは植物のアザミのことで、アザミの花に形が似ていることからこの名が付きました。ちょっと大ぶりのグラスで、口の部分が広がっていることで香りが発散されやすい他、縁の部分を薄くすることで口当たりを良くしています。

シスルグラスは主にスコットランド生まれのスコッチエールを飲むために使われています。スコッチエールはアルコール度数が高く濃いビールなので、冬に体を温めるためにも飲まれます。冷やすと味や香りが損なわれるので、ブランデーグラスと同じように底の部分を持って体温で温めながら飲めるように設計されています。
また、アザミはスコットランドの国花であり、シスルグラスはスコッチエールを飲むのにふさわしいグラスといえます。

適するスタイル
スコッチエール、バーレイワイン

ゴブレット、チャリス

ゴブレット

高めの足と、大きく口が広がったお椀型の形状を持つ足つきグラスです。大きく傾けて一気に飲むことができない形状になっており、時間をかけて味わうビールに適した構造です。広い口は、泡が立ちやすいビールでもあふれてしまうことを防ぐ効果があります。容器が浅いことと合わせ、鼻とビールの表面の距離が近いままに保たれるので、中身が少なくなっても香りを楽しみ続けることが出来ます。

チャリスとゴブレットの違いは少し曖昧ですが、一般的にゴブレットよりもやや口が広く、分厚くて足がしっかりした形状のグラスであることが多いようです。
ベルギーのストロングエールや、デュッベル、トリペルといった、高アルコールで濃い目のビールに適したグラスです。こうしたビールを作っている醸造所は、自社のビール専用グラスとしてゴブレット型を採用しています。

適するスタイル
ストロングエール、デュッベル、トリペル、ボック(メイボック、ドッペルボック)、インペリアルスタウト

フルートグラス

フルートグラス

シャンパングラスとしても使われる、ほっそりとした上品な雰囲気の足つきグラスです。細い胴体は泡の出を促してとどめる効果があり、きれいな見た目を演出します。また、香りを強く立てて外に出す効果もあります。
口が小さいので少し飲みにくく、最後はグラスを大きく傾けないと飲めない欠点があります。多めに飲みたい場合は、口がもう少し大きい白ワイン用のグラスを使う方が良いかもしれません。

果実を使ったフルーツビールや、酸味のある自然発酵ビールのランビック、甘口で酸味のある、ちょっとおしゃれなビールに適したグラスです。

適するスタイル
フルーツビール、ランビック、グーズ、フルーツランビック、ピルスナー、シュバルツ、アイスボック

オーバーサイズ・ワイングラス

オーバーサイズド・ワイングラス

その名の通り、大き目サイズのワイングラスのことです。本来はワイン用ではあるものの、ビールを飲むにも適しています。
ワイングラスといっても形はいろいろですが、ビールの香りを十二分に味わうためには、ボウルの容量がそれなりに大きい物が適しています。おすすめはブルゴーニュワイン用のグラス。口が軽くすぼまっていて香りが中に閉じ込められやすく、なおかつ飲みやすいサイズです。赤ワインのようにボディが強めで、アルコール度数がそれなりに高いビールに適しています。

適するスタイル
バーレイワイン、ダブルIPA、ボック、ストロングエール、デュッベル、トリペル

クラグ

クラグ

ドイツで使われている取っ手付きグラスで、いわゆるジョッキやビアマグです。クラグとはドイツ語で「水差し」を意味します。表面に滑り止め用のへこみが設けられた分厚い素材と、大きな取っ手が特徴です。外部からの熱を遮断しやすいので、ピルスナーのようにのど越しの良いビールを一気に飲むのに適しています。

欠点としては、素材が厚いために口当たりがよくないことと、どうしても重めになってしまうところがあげられます。表面の凸凹が滑り止めになるので、両手で持って飲むのも良いかもしれません。

適するスタイル
ピルスナー、アメリカン・ライトラガー、メルツェン、シュバルツ、へレス、デュンケル

タンカード

タンカード

こちらはイギリス産のビアマグです。形状はまっすぐな円筒形で、材質は古いものならば石や陶器、銀で出来たものもありました。現代はガラスでできているものが大半で、まさにビアジョッキそのものです。基本的には表面がぼこぼこしておらず、滑らかになっている点がクラグと異なっています。

ドイツでは「ステイン」という、タンカードとほぼ同じ容器が使われていました。
タンカードもステインも、古いものは蓋が付いており、取っ手を持つ方の手の親指で開閉できるようになっています。この蓋は中世にヨーロッパで猛威を振るったペストを伝染すると考えられていたハエが、ビールに触れないようにするためのものでした(実際にはノミが刺すことで媒介したので、効果はなかったようです)。

適するスタイル
ピルスナー、アメリカン・ライトラガー、メルツェン、シュバルツ、へレス、デュンケル、ペールエール、IPA

 

足つきのビアグラスの本場はベルギーで、ビールに合わせるために様々な物が使われています。あっさりした軽口のビールは細いフルートグラス、香りと泡立ちが良いビールにはチューリップグラス、高アルコールな濃い口ビールには、スニフターやゴブレットなど浅めのグラスといった使い分けがされています。自宅で飲むときには、ちょうどよいサイズのチューリップグラスを持っていると便利です。ワイングラスを持っていれば、そちらもビールに使ってみましょう。

イギリスのビアグラスはパイントグラスで飲むことが多いのですが、オールドエールやバーレイワインといったアルコール度数の高いものは、ブランデーグラスなどを使って飲むことが多いようです。ちょっとお高いビールをリッチな気持ちで楽しむためにも、興味がある人は一つ用意しておいても損はありません。

ビアマグは冷たいビールをグイッと飲むだけでなく、パイントグラスのようにゆっくりとちびちび飲むことにも使えるので、意外と汎用性が高い品です。友達と飲むばかりでなく、一人でゆっくり飲むときにも使えます。
サイズが大きい場合は、ケグやジャグのように表面に滑り止めが付いた物の方が、洗う際に落としにくく便利になります。ちょっとこだわるときは、陶器製にするのもありですが、重くなりがちなので、自分の力で扱えるかどうかを確認しておきましょう。

次回はこれらには含まれない、少し変わったグラスを紹介します。長い歴史を持つ伝統的なものもあれば、新しい理論によって21世紀に入ってから生まれたものもあります。

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