関西の中心都市である大阪。江戸時代には諸藩の蔵屋敷(大名が領地の年貢米や特産物を販売するために設置した倉庫及び屋敷)が多数置かれ、全国各地からの物品が集結する一大商業地として発展しました。「諸国取引第一之場所」「世俗諸国之台所」とも記され、後に「天下の台所」の由来となったともいわれています。
そんな大阪には全国の食べ物も集結し、瀬戸内の海産物や大阪近郊の野菜にも恵まれ、「大阪の食い倒れ(破産しそうなほど贅沢に飲み食いする)」ということわざまで生まれるほど食が充実した場所となりました。現代でもそれは変わっていません。
クラフトビールについても同様で、規制緩和による最初のクラフトビールブームの時点で参入したブルワリーが、現在も活躍してビールを作り続けています。新しい食文化にいち早く挑戦して取り込もうとする大阪の姿を良く表しているといえるでしょう。
箕面ビール
大阪のクラフトブルワリーの中で最も有名なのが、大阪北部の箕面にある「箕面ビール」です。創立は1996年で、日本のクラフトブルワリーの中では最古参の一つです。
従業員数10名の小規模な企業ですが、2002年以来ほぼ毎年品評会に入賞しており、その実力は折り紙付きです。
ビールは伝統的なスタイルにこだわり、すべての製品を無濾過・非加熱の状態で、瓶の中に酵母を生かして残したまま出荷しています。
店舗などに卸す樽生ビールも同様で、いわゆる「リアルエール」にこだわっています。これは他のビールの様に熟成が完了した状態で樽に入れるのではなく、出荷してから樽の中で発酵・熟成を続けさせて、提供するときにベストな状態になるように調整する形式のことで、イギリスにおける伝統的なビールの提供方法です。炭酸ガスの封入も行っていないので、本場と同様にハンドポンプでくみ上げて注ぐようになっています。
レギュラーの製品は5種類で、日本のクラフトビールで主要なスタイルを、本場に負けない伝統にこだわった姿で作っています。中でも印象的なのが「W-IPA」です。大量にホップを使うIPAですが、麦芽もホップも量を倍増してダブルにすることで、濃さ、アルコール度数、香りと苦みがかなり強くなるように調整されています。
また、季節ごとの限定ビールが6種類あり、2カ月ごとに更新されています。限定醸造なので数量が限られていますが、あらかじめセットを予約して購入しておけば、確実に届けてくれます。限定ビールのラベルやグッズには、箕面に生息しているニホンザルをモチーフにしたお猿さんの絵が使われています。
面白いことにビールばかりでなく、なんと「ポン酢」も作っています。これは冬の限定醸造ビール「ゆずホ和イト」に使うゆずを利用したもので、同じく冬限定品です。
銘柄 | 味の印象 |
---|---|
ピルスナー (ピルスナー 5%) | 定番のピルスナー。低温で長期熟成して作り、濾過をせずに瓶詰めされているので、大手のビールとはまた違う味わいです。 |
スタウト (ドライスタウト 5.5%) | アイルランド生まれの黒ビールで、チョコレートのような香りと味、ドライなのど越しが同居した硬派な味わいです。 |
ペールエール (ペールエール 5.5%) | リアルエールの本場イギリスで「ビール」といえばこれ。冷やさずに常温でちびちび飲むのが正統派。 |
ヴァイツェン (ヘフェヴァイツェン 5%) | 小麦をたっぷり使ったドイツの白ビール。無濾過なので小麦のたんぱく質でうっすら濁っているのが特徴です。 |
W-IPA (IPA 9%) | 通常よりもホップや麦芽の量をさらに増やした、「2倍」のIPAです。並みのビールの2倍近いアルコール度数と濃い味わい、強烈な苦みが特徴の、刺激的なビールに仕上がっています。 |
壽酒造株式会社
壽酒造は1822年(文政5年)に創業した酒蔵で、「國乃長」ブランドの清酒が有名です。ビール製造の開始は規制緩和直後の1995年で、大阪では1番、全国では9番目に古いクラフトブルワリーです。
清酒では淡麗辛口の物は作らず、深みのある甘口にこだわっています。ビールの方もむやみにドライさを追求すること無く、飲みやすくも奥深さがある味になるように工夫されています。
ビールの代表ブランドは清酒と同じ名前の「圀乃長」です。現在は蔵ケルシュ、蔵アンバーの2種が作られています。これ以外にも、夏の蔵開きやビールのイベントに合わせて、限定ビールが作られることがあります。
もう一つのブランド「貴醸」は、最初の発酵を終えた若ビールに清酒を追加して二次発酵と熟成を行うという方法で作られています。この方法は仕込みの水に清酒を加えて作る貴醸酒の製造方法をビールに応用したもので、酒蔵ならではのやり方です。
材料に清酒を使っているために法律上は発泡酒となりますが、麦芽使用比率は50%以上なのでビールと言っても通用するでしょう。清酒の要素を持つことから、和食に合わせやすいビールです。
銘柄 | 味の印象 |
---|---|
蔵ケルシュ (ケルシュ 5%) | ドイツのケルン伝統のスタイルで、エールの酵母を使って発酵させ、低温熟成することで作られています。若干の白ワイン風の香りと、大麦麦芽100%のしっかりしたボディを有します。 |
蔵アンバー (アンバーエール 5%) | ラインナップのリニューアルに伴って新たに加えられた、少し濃い目な琥珀色のエールです。苦みを抑えつつホップの香りを残せるように、4か国の特別なホップを使用しています。 |
貴醸GOLD (発泡酒 5%) | ホップを加えてエキスを抽出した清酒を使って仕込んだビールで、飲んだ後のホップの余韻が長続きします。甘みもあるので、魚の煮つけ用に匂いが強いものからサラダまで、色々な料理に合わせやすい味わいです。 |
貴醸BROWN (発泡酒 5%) | アンバーエールをベースにして、仕込み水に加える清酒に熟成酒が用いたビールです。GOLDとの差別化を図るためにどっしりとした風味に仕上げられており、味の濃い料理によく合います。 |
道頓堀麦酒醸造所
名前の通り、大阪中央区道頓堀の大阪松竹座の地下に居を置くクラフトブルワリーです。創業は1996年で、箕面ビールや壽酒造と同じく日本のクラフトブルワリー第一期生の一つです。
ビールのコンセプトは「和食に合う」こと。設備はドイツからの輸入で、ドイツのビール純粋令に沿った「材料は麦芽とホップだけ」のビールを作っています。
レギュラー製品のケルシュとアルトの二種類ですが、季節限定で様々なビールを作っています。限定ビールは1シーズンの製造量が600リットルだけで、売り切れ次第終了となります。
販売は業務用の樽生ビールだけで、残念ながら瓶や缶では販売されていないので、飲みたいときは売っているお店に足を運ぶしかありません。酵母を濾過せず、樽の中で二次発酵を続けさせるリアルエールの形式をとっているため、入荷されても急がないとすぐに売り切れてしまいます。
確実に飲むためには、やはり醸造所併設の直営店「四季自然喰処たちばな」に行くのがよさそうです。住所は大阪市中央区道頓堀1-9-19大阪松竹座地下2階です。
銘柄 | 味の印象 |
---|---|
道頓堀地ビール「大阪ケルシュ」 (ケルシュ 5%) | ケルンの伝統ビールを大阪の水で作り、無濾過・樽生で提供する道頓堀地ビールの主力製品です。直営店名物の自家製豆腐との相性が抜群です。 |
道頓堀地ビール「大阪アルト」 (アルト 5%) | ケルンのライバル都市であるデュッセルドルフのビールです。ケルシュと同じ手法で作られますが、麦芽の味が強めなのが違いです。明石焼きのお供にぜひ。 |
季節限定「俊」 (アメリカンペールエール 5.2%) | イギリス生まれのペールエールを、ホップを利かせてアメリカ人好みにしたスタイルです。アメリカ産ホップの柑橘系の香りが特徴です。 |
季節限定「ほろよい」 (ウィートエール 5.2%) | 小麦麦芽を使ってカリフォルニアの製法で作った夏限定のビールです。夏の大阪名物「鱧の湯引き」と一緒にどうぞ。 |
大阪IPA (IPA 5.3%) | ホップを大量に使って鮮烈な苦みと香りを持たせたイギリスのビールです。強い苦みと香りは焼き魚の味を引き立てます。 |
季節限定「BAKU」 (ヘフェヴァイツェン 5.5%) | 小麦麦芽を60%使用した本格派のヴァイツェンです。シナモンやバナナに似た優しい甘い香りと味があります。から揚げに合わせるのがお勧めとのこと。 |
これら以外にも、温泉水を使った「地底旅行ビール」のニックタナカ、農業公園「ハーベストの丘」で作る「すきやさかいビール」の堺ファーム、2015年にオープンした大阪発のブリューパブ(パブが醸造を行っている)「MARCA」など、特徴ある企業が軒を連ねています。
これらの企業が作るビールは一般流通しておらず、飲めるのは直営店だけです。大阪を訪れたときは、ぜひ飲みに行ってみましょう。
各直営店の住所は以下の通りとなっています。
地底旅行:大阪市港区南市岡3丁目6-26
ハーベストの丘:大阪府堺市南区鉢ヶ峯寺2405-1
MARCA:大阪市西区北堀江3-7-28
次回は日本の「都」、京都府のクラフトブルワリーを紹介します。