日本の食べ物王国のブルワリー:北海道のクラフトブルワリー

日本の食べ物王国のブルワリー:北海道のクラフトブルワリー

北海道のクラフトブルワリー(イメージ画)

北海道のビールはサッポロだけにあらず

「日本の食糧基地」と称される北海道。四国と九州を合わせたよりも広大な面積を持つ大地は、農産物だけでなく海の幸も豊富な食べ物の王国です。
また、北海道は日本のビールを語る上でなくてはならない場所です。北海道にビールの醸造所が作られたのは1876年(明治9年)、ここから生まれた札幌ビールが現在のサッポロビールへとつながりました。

北海道でビールといえばサッポロビールで、現代でもそれは変わりません。しかし、規制緩和によるクラフトビールの勃興に伴い、北海道の各地で新たなビール企業が生まれています。広い北海道だけあって地域ごとの個性が強く、日本どころか世界中探してもないようなオリジナリティあふれるビールがいくつもあります。
数ある北海道のクラフトブルワリーの中でも、特に有名・個性的な企業を紹介します。

北海道麦酒醸造

北海道麦酒醸造

北海道有数の港湾都市にして観光都市の小樽に居を置く北海道麦酒醸造は、二度目のクラフトビールブームの初期である2004年に設立されました。農作物が豊富な北海道の地理を活かし、有機麦芽やホップ、果物などの原料を契約農家から直接購入することで、素材を活かしたビール造りを図っています。
全国展開も積極的に行っており、スーパーやコンビニでも比較的よく見かけることができます。

ちなみに小樽には小樽麦酒とは別に「小樽ビール」のクラフトビールが製造されています。こちらはレストラン「びっくりドンキー」の親会社アレフが経営する、小樽ビール銭函醸造所で作られているもので、北海道麦酒とはまた異なるブランドです。

ラガーやエールといった普通のラインナップと共に、フルーツビール「フルーツブルーイング」シリーズも主な製品となっています。フルーツビールは果物やその果汁をビールに浸け込んで二次発酵させたもので、果物の甘さによるジュースのような飲みやすさがあるので、ビールが苦手で普段はチューハイを飲んでいる……という方も抵抗なく楽しめます。
フルーツビールは二次発酵によって生まれる非常にきめ細かい泡が特徴で、その繊細な口当たりは炭酸水を使っているチューハイには到底真似できません。

銘柄味の印象
小樽麦酒オタルラガー
(ペールラガー 5%)
チェコ産ファインアロマホップを使用した淡色のラガー。他の国産ピルスナーよりも若干色味が濃く、麦の旨味、かすかな酸味が生きています。
小樽麦酒オタルダーク
(デュンケル 5%)
ローストした麦芽を使った褐色のラガー。低めの温度ならスッキリ感が強く、ぬるめなら味が濃く感じられます。好みや合わせる料理によって温度を変えると良いでしょう。
小樽麦酒オタルエール
(ペールエール 4.5%)
上面発酵酵母を使った英国風エールです。飲んだ後も口の中に残る甘い香りが特徴で、ラガー派の人も抵抗なく飲める味です。
小樽麦酒アンバーエール
(アンバーエール 5%)
苦みが弱めで、エールのフルーティーな香りと麦芽の味、コクのバランスが取れた褐色のエール。缶で販売されているため広く流通しており、手に入れやすいビールです。
小樽麦酒ピルスナー
(ピルスナー 5%)
有機麦芽と有機ホップを使用したオーガニックビール。日本人になじみのピルスナーでありつつ、風味をしっかりと有しています。

小樽麦酒フルーツブルーイング

銘柄味の印象
ペアラガー
(フルーツビール 5%)
北海道だけで作られているブランデーワイン種の洋ナシをラガービールに合わせた製品です。ラガーの淡麗さと洋ナシの濃厚さがバランスを取り、甘すぎずドライすぎない味を作っています。
レモンラガー
(フルーツビール 5%)
瀬戸内産のレモン果汁を使用した、ラドラー風のフルーツビールです。ラガーの淡麗さにレモンの酸っぱさが合わさり、フルーツビールの中でも特に爽やかなビールに仕上がっています。
ハニーアップルエール
(フルーツビール 5%)
北海道産のリンゴと蜂蜜を使い、シードル風に仕上げた一品。シードルに比べると酸味が少なく、はちみつのおかげもあってちょっと甘めの味です。
チェリー&ベリー
(フルーツビール 5%)
ブルーベリー、ラズベリー、チェリー、イチゴなど、様々なベリー類の果汁が使われています。果汁使用率は50%にもなり、酸味と甘みのバランスが取れた味になるように調整されています。
メロンエール
(フルーツビール 5%)
夕張メロンに代表される赤肉が特徴の北海道産メロンの果汁を使った、北海道だけのフルーツビール。香りの段階でメロンだとはっきりわかるほど、メロンがたっぷりと使われています。
ナイアガラエール
(フルーツビール 5%)
ナイアガラ種の白ブドウを使ったエールです。ナイアガラ種は糖度が20度もあって甘いのが特徴で、ジュースやワインに多く使われるなど、果汁のおいしさに定評がある品種として知られています。
ピーチホワイトエール
(フルーツビール 5%)
苦みが少なく柔らかな甘みがある白ビールに、山梨県産の桃の果汁を合わせて作られています。苦みはほとんど感じられず、それどころかお酒であることさえわからない、清涼飲料のようなビールです。

網走ビール

網走ビール

網走ビールは他のクラフトブルワリーとは少し毛色が異なり、東京農業大学の生物産業学部の地ビール開発研究会を出発点とする大学生まれの企業です。
製造の際に三個の釜を使う「三釜方式」という、日本では珍しい方法を採用しているのが特徴です。釜のうち、二つは麦芽の煮沸と濾過に使い、残る一つは別の素材のために使用できるので、多様な種類の副原料を使ったビールを作ることが可能になっています。

網走ビールの代表作は「青いビール」流氷ドラフトです。その強烈な見た目によって話題をさらったこのビールは、花の色素を使うことでオホーツク海の流氷をイメージした色を作っています。この流氷ドラフトを筆頭として、桜色、緑、赤、黒と、目にも鮮やかなビールがそろえられています。
原料も独特で、三釜方式の利点を生かして糖化スターチと長芋を多量に使い、普通のビールや発泡酒とは別種の味を作っています。鮮烈な見た目に反して、味や香りは癖が少ないため、先入観を持たなければ抵抗なく楽しむことができます。

銘柄味の印象
流氷ドラフト
(オリジナルビール 5%)
「青いビール」として網走ビールの名を知らしめた流氷ドラフト、クチナシの色素を使って青い色を出しています。ビールとも発泡酒とも違い、流氷ドラフトの味としか表現できない独特な味を持ちます。
はまなすドラフト
(フルーツビール 5%)
網走産のハマナスの果実、つまりローズヒップを使った桜色のビールです。ローズヒップの酸味と芳香がビールの中に息づき、ちょっとおしゃれな女性向けの色と香りを作り出しています。
知床ドラフト
(オリジナルビール 5%)
流氷ドラフトの青以上に衝撃的な「緑のビール」。色はクチナシとベニバナの色素で作られています。ホップの使用量を控えることで、草原をイメージした香りが出るように工夫されています。
監極の黒
(ドライスタウト 5.5%)
網走の闇の部分である網走監獄をイメージした黒のビール。甘さやさっぱり感ではなく、ローストした麦芽の香ばしさを重視しています。冷やすと風味が感じにくくなるので、必ず常温に近い温度で。
桜桃の雫
(フルーツビール 5%)
サクランボを使用した鮮烈な赤のビール。サクランボはフルーツビールの材料として一般的ですが、桜桃の雫はベースに流氷ドラフトと同じ素材を使用しており、他が決して真似できない製品です。
網走プレミアムビール
(へレス 5%)
プレミアムビールというと日本ではピルスナーが一般的ですが、網走ビールではあえてホップの利いたピルスナーではなく、麦芽の旨味を重視したスタイルを選択しています。
網走ホワイトエール
(ベルジャンホワイト 4.5%)
網走産の小麦「きたほなみ」を使って作られたベルギー風の白ビール。全体的にあっさりと淡白な味に作られているので、料理と合わせても邪魔にならず、パック買いしても持て余さずに飲めることでしょう。

えぞ麦酒

えぞ麦酒

えぞ麦酒は醸造所ではなく、ビールやスピリッツの輸入販売をメインとする会社です。設立したのはカリフォルニア出身で札幌在住の“ビール博士”フレッド・カフマン氏。彼が営むレストランの「麦酒亭」では、300種類以上の世界のビールを飲むことができます。
場所は札幌市中央区南9条西5丁目ヨシヤビル地下です。初来店時に秘密のワードを言えば、お一人様に特典を受けられるという話があります。

ただ単にビールを売るだけでなく、えぞ麦酒ではビールの開発も行っています。1994年の規制緩和が行われた直後、カフマン氏はオレゴン州にあるローグビールと共同で、北海道で初のクラフトビール「蝦夷麦酒」を開発しました。ラインナップはチョコビールやオートミールスタウト、バーレイワインなど、日本ではあまりなじみがない、濃厚さを重視したスタイルが主力です。
製造はアメリカのオレゴン州にあるローグビールに委託しているために、厳密には北海道産ではありませんが、そのアイデアは紛れもなく北海道の大地から生み出されたものです。

銘柄味の印象
丹頂鶴麦酒
(ビターエール 5%)
3種類の麦芽とオレゴン州産ホップで作ったイギリス風ビール。比較的ライトな飲み口ですが、ゆっくり飲んでいくうちに温度が上がり、甘みと苦みが生まれてきます。クセが無いのでどんな料理にも合う味です。
北狐レッド麦酒
(アンバーエール 5.1%)
美しいルビーレッドの色合いをしています。豊かなホップの香り、きめ細かい泡による良い口当たり、後に残る苦みが合わさり、独特のコクのある風味を作っています。
ひぐま濃い麦酒
(オートミールスタウト 5.7%)
オーツ麦を原料に使った濃厚な黒ビール。ローストした麦芽が炭火焙煎のコーヒーのような味を醸し出しています。飲むときは冷やさず、常温で行くのがベスト。
ざる印そばビール
(オリジナルビール 2.9%)
世界初のそば粉を原材料に使用したビールです。そば粉の使用量は55%もあり、そば茶のような後味を残します。アルコール度数が低いばかりでなく、各種の栄養素を豊富に含むヘルシーなビールです。
チョコベアビター
(チョコビール 5.1%)
スタウトにチョコレートを加えて作った元祖チョコビール。チョコレートといっても甘いわけではなく、どちらかといえばとろりとしたほろ苦さを持っています。
チョコベアスイート
(ミルクスタウト 5.1%)
チョコレートビールに乳糖を追加することで、さらに味が濃くされています。イギリスではスタウトの飲み方の一つに、温めて砂糖を追加してコクを出す方法があります。
なまらにがいビール
(ビターエール 6.5%)
「ブルータル(暴力的)ビター」という別名を持つ、なまら(とても)苦いビールです。苦み指標のIBUは59(普通のピルスナーが20)もありますが、意外と飲みやすい不思議なバランスの良さがあります。
インペリアルチョコレートスタウト
(チョコビール 10%)
チョコベアビターに、さらにベルギー産のビターチョコを追加した「超」チョコレートなビールです。溶かしたチョコレートをそのままビールに混ぜたような濃厚さがあります。

はこだてビール

はこだてビール

はこだてビールは株式会社マルカツが醸造しているクラフトビールのブランドです。最初のクラフトビールブーム後期に当たる1996年末にレストラン併設の醸造所で製造が開始されました。
はこだてビールでは特に「水」にこだわり、函館山のふもとから湧き出る地下水を毎朝くみ上げて使っています。山麓の地下水はミネラル分に富んだ硬水で、エールビールを仕込むのに適した性質を持ちます。

主力ラインナップの中で特に印象に残る「社長のよく飲むビール」は、度数10%とビールらしからぬ強さを持ちます。多量の麦芽を使って1か月の長期熟成(通常のビールは2週間)を経て作られるビールで、社長の名に違わない贅沢な仕上がりです。
度数が10%前後のストロングエールを、限定品にせずに通年販売しているブルワリーは日本にはあまりありません。社長のビールなので1本648円とやや高めですが、それだけの価値はあるビールです。

銘柄味の印象
五稜の星
(ヘフェヴァイツェン 5%)
小麦麦芽を60%も使用したドイツ風の白ビール。このビールに特有のバナナやクローブに似た香りと酵母の旨味が、パンを連想させる柔らかさな風味を作り出しています。
明治館
(アルト 5%)
ドイツのデュッセルドルフの名物ビール。「アルト」はドイツ語で「古い」という意味で、伝統的な方法を守って作られたことを示しています。
北の一歩
(ビターエール 5%)
イギリスのパブで一番人気のビターエールは、あっさりと飲める味の中に慎み深い苦みを秘めています。一気に飲むのはもったいないので、時間を掛けて、ちょっとぬるめの温度で楽しみましょう。
北の夜景
(ケルシュ 5%)
エールビールの酵母による華やかな香りと、低温で熟成したことによるラガーのような淡麗さを併せ持つ、ドイツのケルン地方特産のビールです。
社長のよく飲むビール
(ストロングエール 10%)
10%というビールにあるまじき強さは、通常の2倍の麦芽を使用して1か月間の熟成期間を経ることで生み出されます。社長の気分(?)に浸りながらゆっくりと楽しめる、濃い贅沢なビールです。
社員の出世するビール
(ビターエール 4.5%)
社員のビールはライトな中にクセになる苦みを持つビターエールです。好き嫌いが分かれにくく、みんなで楽しめます。
(注:必ずしも出世できるとは限りません、とのこと)

次回は津軽海峡を隔てた青森県のクラフトブルワリーを紹介します。

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