日光や那須などの観光地で有名な栃木県。実は産業も非常に強く、GDPは8兆円近くと世界の過半数の国よりも上です。宇都宮都市圏は政令指定都市を除いて日本最大、日本有数の米生産地であるとともに、牛乳の生産量も北海道に次ぐという相当なパワーを秘めた県です。
何気にビールの主原料である二条大麦の生産量が日本最大で、国産ビールを作る時には重要な場所でもあります。
栃木県のブルワリーはそれぞれに非常に個性が強く、古き良きイングリッシュスタイルを貫く正統保守派もあれば、定番製品を持たずに常に製品を新しくし続けている革新派もあり、また中には1本1万円を超える超高級品を醸造している所も存在します。
いずれのブルワリーも品評会での入賞経験があったり、有名クラフトブルワリーの責任者であった人が醸造を行っていたりと、個性の強さを支える確かな実力を有しています。
那須高原ビール
那須高原ビールは1996年に、那須高原で有名な那須町に設立されたクラフトブルワリーです。設立と同時にイタリアンレストランを開店し、樽生ビールと共にビールや酵母を材料にした、ブルワリー併設店ならではのメニューを提供しています。
那須高原ビールは日本のクラフトブルワリーの中でも優れた実力を持つ企業の一つで、世界最大のビール品評会であるワールドビアカップ、日本地ビール協会主催の国際ビール品評会であるジャパンビアカップで、1990年代後半から2000年代初期まで、毎年複数の銘柄が受賞を果たしていました。
水は那須高原を作る那須連山の湧き水を使い、酵母の栄養と旨味をなくさないように完全無濾過、非加熱のビールを作っています。オシャレで洗練された佇まいのレストランとビールデザインは女性に人気が高く、雑誌「女性自身」に掲載された「美智子様が愛されるロイヤルグルメ17」の一つにも選ばれました。
銘柄 | 味の印象 |
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愛 (ヘレス 5%) | 那須高原ビールの社是である「愛」の名を冠した代表銘柄。ラガーらしいスッキリとした喉越しに、苦みを抑えた飲みやすく軽い料理に合わせやすい金色のビール。皇室の方々にも愛されている、宮内庁御用達のビールです。 |
夢 (ラガー 5%) | 愛とならぶシンプルな名前が印象的なラガースタイルのビール。本格的なドイツ風ラガーです。 |
ヴァイツェン (ヘフェヴァイツェン 5%) | バイエルン地方生まれの小麦ビール。甘く、香り高くも軽めの味わいで、ブルスケッタとの相性がよい前菜のお供ビールです。 |
スコティッシュエール (スコティッシュエール 5%) | 日本のクラフトビールでは珍しいスコットランド由来の濃色ビールです。濃そうな見た目に違わずコクと甘みが強いビールですが、喉越しがよくて苦みも少なく、癖のない味わいです。 |
スタウト (スタウト 6%) | 強くローストした麦芽を使うことで、チョコレートのような香ばしさと濃さを持たせたアイルランド発祥の黒です。ガーリック系の味付けをした料理や、チョコレート系のスイーツとの相性が良好。 |
イングリッシュエール (イングリッシュペールエール 5%) | イングランドの伝統的なビール。色の淡い見た目に反し、ホップの苦みと香りが共に強く、豊潤で濃い味わいです。喉越しの良いビールとは異なり、時間を掛けて飲んでいくタイプのビールといえます。 |
愛の花 (へレスボック 6.5%) | ドイツの高アルコールラガー「ボック」の一種で、「ヘレス」は「色の薄い」「明るい」という意味です。ボックは誕生の地であるアインベックの略ですが、同時に「雄ヤギ」の意味もあり、ヤギに蹴っ飛ばされたような強い衝撃を受けるビールというイメージが込められています。 |
限定醸造品
銘柄 | 味の印象 |
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雪中熟成深山ピルスナー (ピルスナー 5%) | 那須深山の雪の中にタンクを置き、低温で長時間熟成させて作る特製ピルスナーです。雪解けと共に出荷されるので、春季限定の商品となっています。 |
いちごエール (フルーツビール 5%) | 栃木特産のイチゴ「とちおとめ」を使ったフルーツビール。とちおとめは糖度の高さと非常に鮮やかな赤さが特徴で、それを使ったいちごエールも甘さときれいな赤が印象的なビールになっています。 |
もみじエール (レッドエール 5%) | ローストしてカラメル色にした麦芽を少量用いて醸造することで、 紅葉のような赤褐色の色合いを持たせたエールビール。もちろん秋季限定品です。 |
ベルジャンホワイト (ベルジャンホワイト 5%) | ベルギーの伝統的な白ビールで、ハーブと麦芽にしていない小麦を使っているのが特徴です。本来はコリアンダーシードとオレンジピールが使われますが、那須高原ビールではショウガとローズヒップも加えたオリジナルの味に仕上げています。夏季の限定品です。 |
ナインテイルドフォックス (バーレイワイン 11%) | イギリス生まれの高アルコールビールで、長期の熟成を経て作る特製品です。名前は那須高原に伝わる九尾の狐伝説に由来します。最大25年の熟成を行うことが可能で、麦(バーレイ)ワインの名ふさわしいアルコール度数と、コニャックのような重厚な味わいを有します。販売は特製の陶器ボトルで行われており、専用の木箱もつくので贈り物にも適しています。 |
栃木マイクロブルワリー
栃木マイクロブルワリーは1995年に誕生した、宇都宮初のブルーパブ(醸造所併設のパブ)です。オーナーの横須賀氏が店主と醸造士を兼ねて経営を行っています。
ビール造りにおいては「スタイルには一切こだわらずに、自由な味わいを表現する」ことを理念とし、野菜、果物、ハーブ、スパイスなど、あらゆるものを材料にしています。イチゴ、ナシ、マロングラッセ、ピーナッツ、グレープフルーツ、唐辛子、バジル、ローズマリー、シナモンキャラメル、フキノトウ、アスパラガスなど、まさに何でもありです。
中には「ひのき風呂」「女医さん」「忍者」「ウルトラマンライト」など、味どころか材料すら想像もつかないものも混ざっています。
お店では毎月出来立ての限定醸造ビールが提供されており、その数は年間50種類以上にも上るとか。いずれも少量生産なので、ラインナップは不定期に変化します。この他、お客さんから飲みたいビールのアイデアを募集し、10票集まればそのビールを実際に醸造してくれる面白いサービスも実行中です。
票が集まらなくても、注文すれば20~50リットルのオリジナルビールを瓶詰め、あるいは樽詰めで作ってくれるサービスもあります。原材料にもよりますが、価格は20リットルで32,500~36,500円(330ml瓶1本当たり610円)と、完全独自のビールを作るにしてはかなりお手頃です。
2013年にはのれん分けによって、新しい醸造所「宇都宮ブルワリー」、およびその直営店「BLUE MAGIC」が誕生しました。
マスコットに使われている青いカエルは、栃木マイクロブルワリーのイメージカラーである青と、栃木でよく使われるカエル、そして原点に返るという意味が込められています。
銘柄 | 味の印象 |
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ライトエール (ペールエール 5%) | 栃木クラフトブルワリーの数少ないレギュラー・瓶販売の製品です。スタンダードなおいしさがあります。 |
ダークエール (ブラウンエール 5%) | こちらはロースト麦芽を使った濃色エール。個性派ぞろいの栃木マイクロブルワリーのビールの中ではおとなしい定番製品ですが、好みによる当たり外れがないのが魅力。 |
フルーツエール (フルーツビール) | 種類にはイチゴ、ナシ、リンゴ、グレープフルーツがあり、それぞれの果物が旬の季節にのみ生産されています。 |
とちのめぐみ (フルーツビール 5%) | 栃木産の麦、米、リンゴ、ナシ、ブドウを使ったいわばミックスフルーツビール。それぞれの果物を使ったフルーツビールは多々ありますが、同時に使用したビールはなかなかありません。シャンパンに似た720mlボトルで販売されており、贈り物にもよさそうです。 |
プレストンエール
プレストンエールは2002年に開業したクラフトブルワリーで、関東を中心としてホームセンターなどの事業活動を行っている「ホンダ産業」の一事業部としてビールを醸造しています。そのため、プレストンエールが居を置くのはホームセンター「ジョイフル本田」宇都宮店の2階というちょっと変わった場所になっています。
醸造士の菊池氏は日本のクラフトビールメーカー1号である「越後ビール」の立ち上げに関わり、その後もいくつかの醸造所の立ち上げを支援した後に、プレストンエールの醸造士になりました。
日本のビールは基本的にドイツのそれを模範として発展しており、現在のクラフトブルワリーでもドイツの設備や技術を使い、ドイツ風のビールを作っている所が主流です。
しかし、プレストンエールでは菊池氏がイギリスのプレストンで飲んだエールのうまさを念頭に置いたビール造りを行っているので、ラインナップのほぼ全てがイングリッシュスタイルのビールとなっています。
銘柄 | 味の印象 |
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ペールエール (ペールエール 5%) | イギリスでビール云えばこのペールエール。ラガーに比べると香りと味が濃く、さわやかさや喉越しよりも味わいと奥行きを重視した作品です。 |
ブラウンエール (ブラウンエール 5%) | ローストしたカラメルモルトを使ったエールビールで、イギリス産ホップ特有のハーブに似た香りによって、紅茶を連想させる、実にイギリスらしいビールになっています。 |
アイリッシュエール (スタウト 6%) | アイルランド生まれの黒に、プレストン独自の工夫を加えて生み出されたエールです。麦芽の量を通常の1.5倍まで増やし、深く濃い味わいに仕上げられています。チョコレート系のスイーツとの相性が最高です。 |
I.P.A (IPA 7%) | イギリスから植民地のインドへ向けて輸出されていたビールを参考にしたスタイルです。大量に投入されたホップの鮮烈な香りと苦みに、ちょっと濃い目のアルコールが印象に残る個性派ビールです。 |
うしとらブルワリー
うしとらブルワリーは東京の下北沢にあるビアバー「うしとら」が、2014年栃木の下野市に開設したブルワリーです。醸造は埼玉の有名なクラフトブルワリー「COEDO」の醸造主任であった植竹氏が行っています。
「自由と快楽の追求」をテーマに、日々「真剣にふざけながら」ビールを作っている、とのこと。ビールは常に新しい種類を作り続けており、レギュラー製品は何と「無し」。ラインナップは常に新しく入れ替わり、設立から3年余りで、何と150種類を超える種類のビールが作られています。
色々なものに挑戦するためにスタイルや材料も多様で、IPAやアンバーといった定番商品から、複数のスタイルを組み合わせたもの、ヤマモモなど独自の果実を使ったものなど、まさに何でもあり。真剣にふざけるという言葉通り、実に野心的で破天荒なビールばかりです。
ビールの名前も非常に独特で、忘れられないインパクトの強さがあります。
一例を挙げると、
- 「うしとら#004アンバーじゃないエール」
- 「うしとら#014まほろばウィート”Z”」
- 「うしとら#032苦そうで苦くない、ちょっと苦い黒」
- 「うしとら#041ピュア ストリート セッション ~踊る阿保に飲む阿保~」
- 「うしとら#096 マシマシの黒 ~’16 夏 エクストリームコーヒー~」
- 「うしとら#145 これから何する?」
と、なんだかビールの内容を表しているような表していないような、すごい名前ばかりです。
それこそ飲んでみないとわからないビールといったところでしょう。
うしとらでは海外や日本の他のクラフトブルワリーの製品も取り扱っており、店で発酵・熟成を管理するリアルエールの形態で樽生ビールを提供しています。
本店は下北沢ですが、栃木県内のビアパブにもビールを卸しているので、宇都宮ブルワリーのBLUE MAGICなどでもうしとらのビールを飲むことができます。
何とも個性派ぞろいの栃木のブルワリー。飲みたければ行ってみるしかないということで、ビール愛好家ならば栃木に観光に行ったときは東照宮や華厳の滝のみならず、ビアパブを訪れなくてはいけません。
次回は日本におけるビール生産量一位、茨城県のブルワリーを見ていきましょう。