日本でも特有の平坦な県として知られる千葉県。複数の国が集まって形作られた県なので、地域ごとの差が大きく、東京寄りだったり埼玉寄りだったりと、いろいろな顔を併せ持っています。
クラフトブルワリーの数は東京や神奈川、埼玉に比べると少ないのですが、その分だけ選び抜かれたような優秀な実力を持つブルワリーが軒を連ねています。
非常に小規模ながらも世界的なコンペで連続入賞を果たしている所や、世界的に見ても希少な種類のビールを作っている所などがあり、日本では千葉のブルワリー以外で作られていないような種類のビールも見受けられます。それだけでなく、超有名リゾート内で、日本におけるビールテイスター最高位資格者がビール醸造を行っている所もあります。
舞浜の地ビール ハーヴェスト・ムーン
ハーヴェスト・ムーンは、かの東京ディズニーリゾート内にあるショッピングモール、イクスピアリにて醸造されているビールのブランドです。あくまで株式会社イクスピアリの製品であり、ディズニーとは直接の関係はありませんが、正真正銘ディズニーリゾート内で作られているビールです。
1996年にイクスピアリの開発計画が持ち上がったときに、クラフトビールレストランを作ることが計画されたことで誕生し、2000年7月に醸造が始まりました。ビール醸造の責任者である園田智子氏は、元々TDRのゲストパーキングに勤めており、TDRを経営するオリエンタルランド内にてハーヴェスト・ムーンの社員公募が行われた際に、立候補して醸造の勉強を始めました。98年には、日本地ビール協会における認定資格の最高ランク「マスター・ビアジャッジ」の称号を取得しています。この資格を持っているのはわずか8名だけで、園田氏は名実ともに日本におけるビールの第一人者の一人というわけです。
醸造されたビールは、イクスピアリ内のレストラン「ロティズ・ハウス」で、醸造タンクから直接注いでもらって飲むことができる他、東京ディズニーシーの「レストラン櫻」や、リゾートホテルのレストランでも提供されています。ボトル製品もイクスピアリ内のショップや、ホテル併設のコンビニなどでも購入できるので、大人のディズニー土産としてもいい感じです。
2017年現在は常設ラインナップが5種類あり、季節に応じて期間限定銘柄が作られます。いずれもジャパン・アジア・ビアカップ、国際ビール大賞、インターナショナル・ブルーイング・アワードなどでの受賞歴がある、高品質なビールが揃っています。設立までに4年をかけ、その間に日本における最高位のビール専門家を育てた上で醸造を開始しただけのことはあります。
銘柄 | 味の印象 |
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ペールエール (イングリッシュ・ペールエール 5%) | イギリスのバートン・アポン・トレントという町で生まれた伝統的なビールの一つで、エールビールの代表格といえるスタイルです。ハーブのような香りがするイギリスのホップを穏やかに利かせた、本場と同様のイングリッシュスタイルとなっています。 |
ブラウンエール (ブラウンエール 5.5%) | イギリスの伝統的なエールビールですが、一旦衰退しかけたものをアメリカの醸造化が復活させたことで広まりました。ハーヴェスト・ムーンのブラウンエールは柑橘の香りがするアメリカ産ホップを多く使用し、軽くスムーズな味わいに仕上げてあります。 |
シュバルツ (シュバルツ 4.5%) | ドイツ生まれの黒いラガー。シュバルツはドイツ語で「黒」を意味します。麦芽の甘みとホップの苦みを抑え目にして、ロースト感を前面に出したバランス重視の味です。グリルした肉料理と合わせるのがお勧め。 |
ピルスナー (ピルスナー 5.5%) | ラガーの代表選手ともいえるビール。ハーヴェスト・ムーンのピルスナーではヨーロッパ産のノーブルホップを使用しており、シトラスのような香りがします。アメリカ産のはっきりとした香りとも、日本の爽やかな香りとも違う、繊細で上品な印象があります。 |
ベルジャンスタイルウィート (ベルジャン・ホワイト 4.5%) | ベルギー生まれのビールで、小麦、オレンジピール、コリアンダーシードを使用した甘い香りが特徴。苦みの少ない、優しくさわやかな味わいで、女性におすすめのビールです。 |
ロコビア
ロコビアは1998年に佐倉市で設立されたマイクロブルワリーで、2012年に従業員所有の会社として再出発しました。
規模だけで見ると小さい会社ですが、その品ぞろえの豊富さは目を見張るものがあります。アメリカ西海岸生まれの「カリフォルニア・コモン」、乳酸菌と塩を使うドイツの「ゴーゼ」、絶滅寸前の伝統的なアメリカビール「アメリカン・クラシック・ピルスナー」など、日本はおろか世界的に見てもレアなビールを作っているのが特徴です。ラインナップも毎年、舞季節ごとに新しくしており、従業員所有の小さな会社ならではの、フットワークの軽さと新しいことに積極的に挑戦する姿勢が良く分かります。
もう一つ特徴的なのが、アルコール度数が高い長期熟成ビールを多く作っている所です。イギリスの「オールド・エール」、アメリカの「バーレイワイン」、ドイツの「ボック」、そしてベルギーの「スーパーセゾン」「トリペル」、スコットランドの「スコッチ・エール」など、有名な高アルコールビールを一社だけでひと通り作っている醸造所は、日本ではここぐらいかもしれません。
もちろん、これらのビールは常に揃っているわけではなく、季節限定品や何らかの記念時の特別醸造品も多いため、入手できる機会は限られています。それゆえにお得感があり、次は何が来るかと楽しみに待てるところも小規模な醸造所の良い所でしょう。
ちなみに、高アルコールの製品は長期間もつので、限定品でも在庫が残っている物がそれなりにあります。売り切れてしまう前にゲットするべきです。
通年生産品・季節限定品
銘柄 | 味の印象 |
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佐倉スチーム (カリフォルニア・コモン 5%) | 19世紀のアメリカ西海岸で生まれたスタイルのビールです。現代ではアンカー醸造所の「アンカー・スチーム」が有名ですが、日本ではほとんど作られていない珍しいビールです。エールビールの酵母を使って低温で発酵・熟成させて作られ、クリーンさと豊潤さを併せ持ちます。 |
佐倉香りの生 (ケルシュ 5%) | ドイツのケルン特産のビールです。エールビールの酵母を使って低温で熟成させて作られたビールで、アメリカンなスタイルのスチームと比べるとホップの使用量を控えて苦みを少なくしています。ドライすぎず、それでいて香りが良く爽やかなビールです。 |
スーパーセゾン (セゾン 9%) | ベルギーの農家が夏に飲むために作っていたビール「セゾン」の中でも、特に度数が高いものがこの名前で呼ばれます。ロコビアのものは、コリアンダーシード、ショウガ、クミンシード、スターアニス、グレインオブパラダイスなどのスパイスを加えて長期熟成させたドライな一品です。750mlのコルク付き瓶でのみ販売されています。 |
イミグラント・ピルスナー (クラシック・アメリカン・ピルスナー 5.5%) | 19世紀から20世紀初頭のアメリカで、ドイツからの移民が現地で入手可能な材料を使って、故郷のビールの味を再現したことから生まれたアメリカンビールです。アメリカ産ホップを利かせるとともに、原料の1/4にトウモロコシを使用して、少し甘くクリスピーな味わいを持たせています。 |
ライ麦セゾン (ライビール/セゾン 5.5%) | ライ麦を使って作った夏限定製品で、ライ麦特有の穀物的な旨味があります。セゾンは元々農家が自家醸造していたビールなので、もしかするとライ麦も使っていたところもあったかもしれません。爽やかで軽めの味です。 |
General Winter (オールド・エール 7%) | 濃く作った麦汁を長期熟成することで作られる、イギリス発祥の高アルコールビールです。強いアルコール感を感じさせないマイルドさと、がっしりとしたボディの強さが特徴。冬に体を温めるために常温で飲む「ウィンター・ウォーマー」にふさわしい、冬季限定ビールです。 |
特別醸造品
銘柄 | 味の印象 |
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Barley Wine (バーレイワイン 9.5%) | ロコビアの1周年と4周年記念の際に醸造された、アメリカ発祥の高アルコールのビンテージビール。比重1.1、IBU(苦み指数)100、度数9.5%(ピルスナーは比重1.04、IBU20、度数5%)と、何もかもが濃く、強い、とっておきの品です。数年間常温で保管することで熟成が進み、よりアルコールが強く、芳醇で深みのある味になります。 |
Wee Heavy (スコッチ・エール 8.5%) | スコットランドにおいて輸出向けとして製造されている高アルコールビール。通常の2.5倍の麦芽を使用し、発酵に1カ月、熟成に7カ月、さらに瓶内熟成に2カ月もの時間を掛けてから出荷された特別な品です。2017年現在ではさらに味が深まっていることでしょう。 |
Triple Bock (ドッペルボック 9.5%) | ドイツ生まれの高アルコールラガーで、ロコビアの3周年記念醸造品です。ドッペルは「ダブル」の意味ですが、それよりも更に濃くなるように、通常の3倍の麦芽、3倍のホップを使用し、1年半もの期間をかけて作られています。色は濃いのですが、何とローストした麦芽は一切使っていないとのこと。 |
迎春“酉”ペル (ベルジャン・トリペル 8.5%) | 2017年を記念して作られた、ベルギーの修道院発祥の高アルコールビールです。他の高アルコールビールと違って色は明るく、ドライなためについつい軽く飲んでしまえる危険な品です。酵母由来のフルーティーな香りと、長期熟成品ならではの深い味わいも持っています。 |
ココナッツポーター (オリジナルビール 5%) | ロンドンの伝統的な黒ビールである「ポーター」に、何とココナッツを加えた特別製品です。元々は日本人醸造者が考案してた組み合わせで、1998年の全米クラフトビール大会で最優秀賞を獲得した伝説の味だとか。ロコビアではオリジナルレシピの配合をそのままに、ココナッツ感が強くなるように作っています。 |
タンジェリン・トリップ (セゾン 5.5%) | 日本古来のミカンの品種である「福来ミカン」の皮を香りづけに使用したセゾンです。福来ミカンは直径2~3cmの小さなミカンですが、非常に華やかで強い香りを持っています。 |
Unite Red Ale (アンバーエール 4.6%) | 軽くローストした麦芽を使った赤褐色のビールで、ホップの香りを強調するためにアメリカのウィラメット種のホップを使用しています。クラフトビール業界における情勢の地位向上を目指すイベント「IWCD」で、女性チームによって醸造されました。 |
Pink Boots Gose (ゴーゼ 4.5%) | IWCDのイベント「BBB」の第3回である2016年3月5日に作られた記念品です。ゴーゼはドイツのハルツ地方発祥のビールで、小麦やオート麦、大量の塩、コリアンダーなどの薬草を加えて作られます。乳酸菌も発酵を行うので、味はしょっぱくて酸っぱく、しかも濁っているという、日本では考えられないすごいビールです。 |
ソングバード
ソングバードは木更津市にある、とても小規模な醸造所です。2015年に開設され、初年度で20種類以上の製品を作り、ボトル出荷も行っています。作るビールは基本的にベルギー系のもので、ハーブやコリアンダーシード、小麦、果物もよく使うところが特徴です。ドイツビールの一部のように、燻したスモーク麦芽も取り入れているので、非常に多彩な組み合わせを実現しています。
通年商品は5つあり、季節ごとに3~7ぐらいの限定版が醸造されていきます。バリエーションは非常に豊かで、スコッチと同じように泥炭を燃やした煙で燻したスモークビール、ラベンダーを加えたベルギー風黒ビール、サワーモルトで作った上に梅を漬け込んだ酸っぱい「梅ビール」など、伝統的なものから実験的なものまで様々です。
ロコビアと同様に、小規模な醸造所ならではの商品切り替えの早さと、発想の自由さがうかがえます。
毎年ビールの種類を変更し、続投したラインナップも何らかの改良を加えつつ、常に新しいビールが出ています。ここまでいろいろと新しいビールが出て来ると、見ているだけでも楽しくなってきます。
ボトルでの販売も行っているので、手に入れようと思えば取り寄せることもできる他、醸造所に行けば立ち飲みができるタップルームもあります。今後の成長が楽しみな醸造所です。
銘柄 | 味の印象 |
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BLONDE (ベルジャン・ブロンド 5%) | ベルギーの酵母を使って作られた黄金色のビールです。ベルギーの品種の酵母が生み出す成分のフルーティーな香りと、ホップのスパイシーさ、麦芽のほのかな甘みが組み合わさった、複雑な味わいがします。 |
GOLDEN BITTER (ビター 4.5%) | イギリスのパブでよく飲まれている、基本的かつ人気のエールビールです。イギリスの麦芽とホップをそれぞれ1種類だけ使用したシンプルな作りですが、それゆえに飲み飽きない、普段飲みに適した味わいです。 |
BRETT – TABLE BEER (ワイルドビール 4.5%) | ブレッタノマイセスという属の酵母を使用したビールです。この酵母は皮革のような香りの成分を出すためにワイン醸造では嫌われるのですが、ベルギーのビールではあえてこの酵母を使うことで香りに深みを持たせたものが数多くあります。食卓に合うビールです。 |
Wheat (ベルジャン・ホワイト 4.5%) | ベルギービールの中でも特に人気のホワイトエール。シンプルで軽やかな飲み口に、コリアンダーシードの香りによって引き締まった後味が印象的です。 |
MODERNE (ベルジャン・トリペル 8.5%) | ベルギーのトラピスト会系修道院が販売用に作っている高アルコールなビールです。明るい琥珀のような色合いに、オレンジピールや複雑なハーブのような香り、辛口さが秘められています。 |
次回は神奈川県のクラフトブルワリーを紹介していきます。