日本クラフトビールの原点?:神奈川県のクラフトブルワリー

日本クラフトビールの原点?:神奈川県のクラフトブルワリー

神奈川県のクラフトブルワリー

神奈川といえば横浜や湘南など、流行に敏感で格好良い港町がいくつもそろっている県です。古くから港町であった横浜は外国からビールがやってくるのもいち早かったことであろうと思われます。

実は、厚木にあるブルワリー「サンクトガーレン」がサンフランシスコでビアパブをやっていたときにメディアに取り上げられたことが、1994年のビール規制緩和のきっかけのひとつになったともいわれています。クラフトビール解禁から20年以上が経っても人気は衰えず、月に1万本売れればヒットであると言われるクラフトビール業界において、月2~3万本も売れる銘柄を複数抱えています。

まさに流行を作り出し、その最先端を突っ走る町ならではのブルワリーといえるかもしれません。

サンクトガーレン

サンクトガーレン

サンクトガーレンは2002年に厚木市で設立されたクラフトブルワリーです。名前は記録に残っている最古の修道院醸造所である、スイスのザンクト・ガレン修道院に由来します。
創業者・社長・醸造士である岩本氏は、1993年にサンフランシスコでブルワリーパブ「カフェ・パシフィカ」をオープンして、ビールの醸造と販売を行っていました。
一説によると、この活動がアメリカで話題になったことが、日本のクラフトビール勃興のきっかけとなった規制緩和の一因となったのこと。日本のクラフトビール流行の原点ともいえるので、「元祖地ビール店」の異名もあります。

サンクトガーレンの目玉商品は、何といっても「チョコレートビール」シリーズ。これはチョコレートを使っているというわけではなく、チョコレートのような色と香りが出るまでローストした麦芽を使って作られたビールであることを意味します。
バレンタインデーに合わせて2006年に作られた「インペリアルチョコレートスタウト」を筆頭として、翌年の「黒糖スイートスタウト」「スイートバニラスタウト」は月に2~3万本も売れる超大ヒット商品になりました。
これらを始めとして他のビールの売り上げも伸び、日本で開かれる国際ビール大賞では3年連続で最多のメダル数を獲得するなど、日本を代表するクラフトブルワリーのひとつにまでなっています。

銘柄味の印象
ゴールデンエール
(ゴールデンエール 4.8%)
ピルスナーに近い金色の見た目ですが、オレンジやマスカットを連想させるホップの香りと麦のコクが強調されています。ゴールデンの名にふさわしい「きれいな」味のビールです。
アンバーエール
(アンバーエール 5.2%)
ローストした麦芽を使い、琥珀のような赤褐色になったビールです。数値上の苦みはゴールデンよりも上ですが、麦芽の甘みによってそれほど苦いとは感じず、全体的に落ち着いた味わいがあります。
ブラウンポーター
(ブラウンポーター 5.5%)
ポーターはイギリスのロンドンで生まれた濃色系ビールで、荷物運搬人に人気であったことから名づけられたと言われています。チョコレート麦芽の香ばしさと、アメリカ産ホップのスパイシーさが特徴。
ペールエール
(ペールエール 5.6%)
イギリスで生まれたペールエールを、ホップを利かせてアメリカ風にアレンジした「アメリカンペールエール」と呼ばれるスタイルのビールです。大手のピルスナーがまるで水と思わせるほどに高い香りがウリです。
YOKOHAMA XPA
(IPA 6%)
「赤道を越えても腐らない」と評された硬度0の横浜の水を使い、船旅でも腐らないように通常の4倍のホップを投入した、船乗りのビールの復刻版です。目の覚めるような、鮮烈な苦みがほとばしります。
黒糖スイートスタウト
(スイートスタウト 6.4%)
黒ビールに砂糖を入れてコクを出すイギリスの飲み方を日本風にアレンジし、沖縄産の黒糖を加えて作ってあります。泡まで黒糖の色と香りがあり、ビールの方も甘みに負けないように濃い仕上がりです。
スイートバニラスタウト
(スイートスタウト 6.4%)
黒糖スイートと共に、サンクトガーレンの「スイートビール」シリーズとして販売された黒ビールです。バニラビーンズで香りをつけ、ビールも甘めに仕上げることでバニラチョコのような味を持たせています。

限定醸造品

銘柄味の印象
インペリアルチョコレートスタウト
(インペリアルスタウト 9%)
サンクトガーレンのバレンタイン向けチョコレートビールシリーズの第一号です。通常の2.5倍の量の麦芽を使い、半分程度の量しか作らない超特濃ビールで、フルボディの赤ワイン以上の飲みごたえがあります。
セサミチョコレートスタウト
(スパイスビール/チョコレートスタウト 6.5%)
2017年の限定品で、黒ゴマを麦汁の抽出時、煮沸時、熟成時の三度に分け、合計200kg以上投入して作られています。黒ゴマムースのようなもっちりしたビールです。
オレンジチョコレートスタウト
(チョコレートスタウト 6.6%)
こちらもバレンタイン限定製品で、オレンジの皮を煮込んで二次発酵中の麦汁に加えることで香りを付けています。オランジェ(オレンジの皮をチョコレートでコーティングしたお菓子)に似たビールです。
さくら
(ハーブビール 5%)
桜茶などに使われる食用の八重桜を、1回の仕込みに60kg使って香りを付けたサンクトガーレンオリジナルの春限定ビールです。桜の香りを引き出すためにホップは控えめで、苦みも抑えられています。
湘南ゴールド
(フルーツビール 4.8%)
湘南ゴールドは神奈川県特産のオレンジの品種で、香水のようであると表現されるほど香り高いことで知られています。湘南ゴールドと、柑橘系の香りがするアロマホップを使い、最大限まで香りを高めたビールです。
パイナップルエール
(フルーツビール 4.8%)
デルモンテのゴールデンパイナップルを600kgも漬け込んで作る、夏限定のフルーツビールです。パイナップルらしい瑞々しさと爽快さがある、非常に夏らしい味わいがあります。
アップルシナモンエール
(フルーツビール 4.8%)
ローストしてカラメルのような香りを持たせた麦芽に、メープルシロップ、シナモン、さらには焼き林檎500個を加えて作られた、飲むアップルパイのようなビールです。秋と冬に限定販売されています。
エル・ディアブロ
(バーレーワイン 9.8%)
通常の約2.5倍の麦芽と、6倍のホップで作られるプレミアムビールです。名前はスペイン語で「悪魔」を意味します。熟成によって味と度数が変化し、5年間の保存ができます。
ウン・アンジェロ
(ウィートワイン 10%)
2016年に登場した、小麦を使った高アルコールのプレミアムビールです。バーレーワインよりも甘みが強い優しい味を持つことから、悪魔と対になる「天使」の名前が付けられました。
サンクトガーレン 限定醸造品
サンクトガーレン 限定醸造品

湘南ビール

湘南ビール

湘南ビールは茅ヶ崎市で1872年に創業した酒蔵「熊澤酒造」が製造するビールブランドです。ドイツのビール職人から技術を受け継ぎ、ドイツ製の設備を使用してビールの醸造を行っていますが、スタイルはドイツにこだわらず、ベルギー、イギリス、アメリカなど、様々な国のビールを作っています。
ベルギーの酵母でアイルランドのビールを作ったり、小麦で高アルコールビールを作ったり、複数のスタイルを組み合わせたりと、単なる模倣にとどまらず、オリジナルの銘柄を作り出す意欲的な姿勢にも注目です。

現在、熊澤酒造は湘南における最後の清酒酒造になっていますが、クラフトビールに加えて複数のレストランを展開し、どんどんと進化し続けています。
敷地内にある「MOKICHI TRATTOROIA」では、店内のサーバーがパイプで醸造所のタンクと直結されており、文字通り「直送」のビールを飲むことができるようになっています。このほかにも、ベーカリー&ケーキショップ、ギャラリー兼雑貨屋など、清酒の酒蔵という古風なイメージを覆す店も経営しています。

6店舗が茅ヶ崎市内に存在し、藤沢市にもビアカフェ「MOKICHI CRAFTBEER」があります。

銘柄味の印象
ピルスナー
(ピルスナー 5%)
現代ビールの代表ともいえる、チェコのピルゼン地方で生まれた金色のビール。ドライすぎず、麦芽の味とのバランスも重視した味わいです。
シュバルツ
(シュバルツ 5%)
ドイツ語で「黒」を意味するラガーです。実は苦み指数はピルスナーよりも下で、ラガー酵母を使用することで同等のスッキリ感を持つので、「飲みやすい黒」になっています。
アルト
(アルト 5%)
ドイツのデュッセルドルフ由来のビールで、複雑な香りを産むエールの酵母を使い、ラガーのように低温で発酵させることでスッキリ感も持たされています。何回もお代わりしたくなるようなビールです。
ゴールデンエール
(ゴールデンエール 5%)
ピルスナーと同じ金色の外見ですが、ホップが放つ果物のような華のある香りが特徴です。
IPA
(アメリカンIPA 6%)
ホップを大量に使用したイギリス由来のビールに、ホップをさらに使用してアメリカ風にアレンジしたスタイル。ホップの種類を変えたバージョンが、これまでに20種類以上も作られています。

限定商品

銘柄味の印象
チョコレートポーター
(ロブストポーター 6%)
チョコレート麦芽を使い、長期熟成することで作られる、バレンタイン限定製品です。ビターチョコのような深いコクがあり、香りと味を楽しむために、冷やさずに飲むのがお勧めです。ハートのラベルがポイント。
ヴァイツェン
(ヴァイツェン 5%)
原料の50%に小麦麦芽を使用した、ドイツのバイエルン地方原産のビールです。バナナやクローヴを思わせる香りと、甘みとかすかな酸味を持ち、苦いビールが苦手な人にもピッタリの優しい味です。
ヴァイツェンボック
(ヴァイツェンボック 7%)
多めの麦芽で濃く作った麦汁を使用した、高アルコールのヴァイツェンとでもいうべきビールです。ローストした麦芽を少量使用することで、ヴァイツェンの香りにカラメルのような甘さをプラスしています。
ラオホヴァイス
(ヴァイツェン/ラオホ 5%)
ラオホはブナの煙で燻した麦芽を使うドイツのビールと、ヴァイツェンと組み合わせたオリジナルスタイル。燻製の香りと甘い香りが合体した、不思議かつ複雑極まりないオンリーワンのビールです。
マイボック
(マイボック 6.5%)
マイはドイツ語で「5月」の意味で、冬前に仕込んで春に飲むビールであることを意味します。春らしい明るい色合いですが、濃厚な麦芽の味を持つ強いビールです。
アンバーエール
(アンバーエール 5%)
アメリカで特に人気が高い、琥珀色をしたエールビール。ホップの苦みと麦芽の甘みが調和し、濃すぎず苦すぎない飲みやすさを有しています。
セゾン
(セゾン 5%)
ベルギーで農家が夏の飲み物として作っていたビールを、アメリカとニュージランド産のホップを加えてアレンジした物です。爽やかさと鮮烈なアロマが同居した、蒸し暑い夏によく合うビールになっています。
ベルジャンレッド
(アンバーエール 5%)
ベルギー産酵母を使って作られたアンバーエールです。普通のアンバーエールとはまた異なる、酵母が作る花のような香りを持ちます。
ライスラガー
(ライスラガー 5%)
炊き立ての米を思わせる香りとふくよかな甘みがある、実に酒蔵らしいビールです。
茅ヶ崎キヌヒカリエール
(ライスエール 5%)
茅ヶ崎産のキヌヒカリ米を使い、エール酵母とチェコ産ザーツホップで仕上げた、もう一つのライスビールです。ライスエールよりも苦みが強く、味わいが濃くなっています。

プレミアム品

銘柄味の印象
バーレーワイン
(バーレーワイン 8.5%)
大量の麦芽を使って濃く作られた高アルコールビールで、ワイン並みの度数と、年単位の熟成で変化する味わいが特徴です。ホップも大量に使うため、どの醸造所でも少数しか作っていません。
ウィートワイン
(ウィートワイン 8.5%)
バーレー(大麦)だけでなく、ウィート(小麦)麦芽も使って作られた高アルコールビールです。バーレーワインよりも苦みが抑えられ、甘さが印象的な味です。
インペリアルスタウト
(インペリアルスタウト 8%)
インペリアルの名は、かつて帝政ロシアの皇室で気に入られたことから、積極的に輸出が行われるようになったことが由来とされています。ロシアらしいアルコールの強さがミソです。
ベルジャンスタウト
(ベルジャンスタウト 8%)
セゾンの酵母を使用したスタウト。温度が低いとスタウトらしい苦みがあり、高くなるとセゾンの酵母が作る花のような香りが感じられるようになります。
天狗
(ベルジャンスタウト)
湘南ビール誕生20周年記念として開発されたビールです。熟成の際に、ウィスキーの熟成に使っていた樽を使用した「バレルエイジドビール」で、今後も複数種類が作られていく予定だそうです。

フルーツ・ハーブビール

銘柄味の印象
大磯こたつみかんエール
(フルーツビール 5%)
「NPO西湘をあそぶ会」が大磯町で無農薬栽培している、こたつ用みかんの皮と果汁を使用したジャパニーズオレンジビール。小麦麦芽も使い、ちょっと甘いビールに仕上げてあります。
サマーオレンジエール
(フルーツビール 5%)
柑橘系の香りが爽やかなゴールデンエールに、オレンジ果汁をブレンドして作った、非常に夏らしいフルーツビールです。
Lemongrass Hopper
(ハーブビール 5%)
神奈川県産のレモングラスを使用した、ちょっと珍しいハーブビール。口に含むとレモンの香りとハーブの香りがはじけ、長く良い余韻が続きます。
27コーヒーエール
(コーヒービール 5%)
湘南の辻堂に店を構える「27 Coffee Rosters」が用意するオリジナルブレンドのコーヒー豆を、ブラウンポーターに使用して作ったコーヒービールです。

横浜ベイブルーイング

横浜ベイブルーイング

ベイブルーイングは2011年にビアパブとして発足したクラフトブルワリーです。最初は限定醸造品を作っていましたが、創業者の鈴木氏が本当に作りたかった「ピルスナー」の醸造を学ぶため、設立から3年目にチェコに飛び、現地で研修を受けたとのこと。
元々、販売は樽生だけであったためにお店でしか飲めなかったのですが、2015年から瓶製品も販売されるようになり、全国どこでも入手が可能になりました。また、2016年に戸塚に工場を新設し、規模を拡大しての生産が開始されました。

ベイブルーイングの主力商品は何といってもピルスナー。今や世界中で作られ、日本でもビールのほとんどはこのピルスナーですが、ベイブルーイングの物は最も原点に近いチェコ風の「ボヘミアンピルスナー」です。
本場のボヘミアンピルスナーは麦汁の煮出し・煮沸工程を3度繰り返す「トリプルデコクション」という方法が特徴で、他に比べると麦芽の味が強く、全体的にバランスの取れた風味を持ちます。
そして、2014年にチェコの最大のビール審査会「GOLD BREWERS SEAL」において、200以上もあるチェコのブルワリーを倒して優勝しました。
名実ともに本場も認める真のピルスナーを作る、数少ないブルワリーといえるでしょう。

銘柄味の印象
ベイピルスナー
(ピルスナー 5%)
ベイブルーイングの夢の結晶ともいえる主力商品です。むやみにスッキリ感やドライさを求めることなく、ビールらしいビールを追求した商品です。
ベイヴァイス
(ヘフェヴァイツェン 5%)
ベイブルーイングがビアパブであったころから最も人気のある商品であった小麦のビール。魯かをせず、酵母と小麦のたんぱくの濁りをそのまま残し、ビールの中に甘い香りを閉じ込めています。
パイルドライバーIPA
(アメリカンIPA 7.5%)
戸塚の新工場における製品第一号です。パイルドライバーは「杭打機」のことで、相手を地面に打ち付けるプロレス技にも名前が付けられています。その名の如く「ちょっと入れすぎた」ホップがガツンと響きます。
IBUKI フレッシュホップ
(オリジナルビール 5%)
岩手県遠野産の「IBUKI」ホップを100%使用したオリジナルビールです。苦みづけはペレットにしたホップ、香りづけは凍結したホップを使い、日本のホップの持ち味を100%引き出しています。

次回は長野県のクラフトブルワリーを紹介していきます。
長野県は日本のクラフトブルワリー業界において最も有力な企業がひしめいています。その中には、沖縄の大手オリオンをも凌駕した、あの企業も含まれています。

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