伝統文化の街から生まれる洋風のビアパブ:石川県のクラフトブルワリー

伝統文化の街から生まれる洋風のビアパブ:石川県のクラフトブルワリー

石川県のクラフトブルワリー

石川県は、江戸時代に一帯を統治していた加賀藩が学問や文芸を奨励したことで様々な伝統文化が隆盛し、今も数多くが引き継がれている地域です。太平洋戦争で空襲をうけなかったこともあり、金沢周辺には伝統ある街並みが残されています。
日本でビール規制緩和によるクラフトビールの解禁が始まった時、石川県でもかなり早くからオリジナルビールを醸造しようとする動きがあり、多くのブルワリーが作られました。ですが、残念ながら第一次クラフトビールが去った後から現在に至るまでに、多くのブルワリーが閉店してしまい、当初から残っている所はあまりありません。
それでもなお、2010年代後半になってから新たなブルーパブが金沢の周辺で誕生してきており、伝統のある街並みの中に外国の新しいビール文化を受け継いだ場所が生まれつつあります。古い町家の中におしゃれなパブが収まっていたら、もしかするとそこでビールが作られているかもしれません。

奥能登ビール

奥能登ビール

奥能登ビールは能登町にあるリゾートエリア「Heat & Beer 日本海倶楽部」で醸造されているビールのブランドです。エリア内にはビール工房の他、レストラン、牧場があり、風光明媚な景色を眺めながら、ビールと食事を楽しめます。
レストランは各種の肉料理と、ナンのセットが充実しています。中には、「エミュー(オーストラリアに生息するダチョウ目の鳥)の竜田揚げ」という、一風変わったメニューもあります。

醸造士のユジ・コネティック氏は、ピルスナー発祥の地であるチェコの出身。ピルスナーは日本のビールのほとんどを占める、私たちにとって最もなじみ深い種類のビールです。まさに日本人のビールの原点ともいえる場所が生んだ醸造技術の持ち主と言えるでしょう。
彼が醸造する奥能登ビールの主役も、当然ながらピルスナーを中心としたラガーです。保存性を重視した大手のものと異なり、酵母を濾過せず残したままの状態で提供されています。酵母は必須アミノ酸やビタミン、ミネラル分を多く含んでおり、味と栄養価の両方の面でビールの質を向上させてくれます。

金沢百万石ビール&白山わくわくビール

金沢百万石ビール&白石わくわくビール

金沢百万石ビールと白山わくわくビールは、川北町にある農業法人「わくわく手づくりファーム川北」が生産するビールのブランドです。わくわく手づくりファーム川北は川北町に新しい地場産業の創設を目的とし、2000年から営業を行っています。
また設立される前、1996年のクラフトビール解禁の直後から他県のビール醸造施設を見学するなど、ビールの製造には当初から意欲的な姿勢を見せていました。現在はビールの醸造販売の他、地元で採れた食材を使った特産品の販売や、休耕田を活用した農作物の生産を行っています。

ビールブランドのうち、白山わくわくビールは休耕田で栽培した六条大麦を使用しています。近年では北陸新幹線とのタイアップ商品が登場しています。
オリジナルビールを小ロットから受注するサービスも行っており、麦100kg単位で受け付けています。こう言ったサービスの多くは、通常リットルやバレル単位での受注となっているのですが、原料の麦の単位で受注するのは、とても農園らしい形態といえます。

オリエンタルブルーイング

オリエンタルブルーイング

オリエンタルブルーイングは2016年8月に、金沢市の東山にオープンしたブルーパブです。東山は江戸時代を思い起こさせる古い町並みが残っており、金沢市の観光スポットの一つであるひがし茶屋街があります。
オリエンタルブルーイングがあるのは茶屋街のすぐ近くにある町家で、実は「お金を積んでも借りられない」という貴重な一等地です。元は金沢の老舗氷業者である「クラモト氷業」の店舗で、事業拡大に伴って郊外移転したのを機に、オリエンタルブルーイングが入ることになったとのこと。外見は伝統ある町家ですが、内装は西洋風の酒場に大改装してあります。

創業者の田中氏は元々経営コンサルタントを仕事としており、様々なプロジェクトに参加していた経営のプロです。仕事を辞めて2015年に妻の洋子さんと共に世界一周の旅に出たときにビールの多様性に目覚め、生まれ育った石川県での企業を決意したそうです。
日本ではビールといえばピルスナーがほとんどなので、「ビール」といえば注文が出来ますが、田中氏が旅に出た先ではビールを注文すると、いつも「どの種類のビール?」と聞き返されたそうです。ビールの種類が色々あるので、当然ながら味わって飲み比べることも一般的です。オリエンタルブルーイングでは自家醸造ビールの他、国内外の様々なビールを取り揃えており、それぞれのビールのスタイルに合う食事をメニューに入れています。

ラインナップ第1弾は「ヴァイツェン」と、石川県産の柚子を使った「ゆずエール」。今後は、クラモト氷業が製造する金沢産の氷を仕込み水として使用する計画もあるとのこと。氷を溶かした水は不純物が少なく、ビールの味わいがよりすっきりしたものになります。

静岡には、夫婦で作ったブルーパブが規模を広げ、今や世界8か国にまで輸出する優良クラフトブルワリーにまで成長した例があります。オリエンタルブルーイングも今後の成長が楽しみです。

次回は石川県のお隣、福井県のクラフトブルワリーを紹介します。

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