晴れの国のクラフトブルワリー:岡山県のクラフトブルワリー

晴れの国のクラフトブルワリー:岡山県のクラフトブルワリー

岡山県のクラフトブルワリー

「晴れの国」というキャッチフレーズがあるほど、晴天に恵まれている岡山県。瀬戸内気候の良好な日照条件に加え、三つの一級河川による豊かな水源、そして干拓で作られた広い農地により、米、麦、さらには果物の栽培が盛んな土地です。
米と良質な水があることから酒屋が多く、岡山県の代表的なクラフトブルワリーは、そうした清酒の蔵元がビール醸造に参入したところとなっています。また、名物であるマスカットやモモなどの優れた果物を使用した、素晴らしいフルーツビールがあるのも特徴です。

残念ながら倉敷にあった「倉敷麦酒館」と「倉敷チボリ公園」が閉店してしまったために、岡山のブルワリーの数はそれほど多くはありません。しかし、中国地方のクラフトビールブランド1号の「独歩ビール」は有名なブランドであり、全国的な商品展開が行われています。また、「吉備土手下麦酒」地元のお客さんをターゲットにしつつ、クラフトブルワリー開店希望者に修行の場を提供して協力者を増やすという、別の意味での拡大戦略をとっています。ブルワリーの数が少ないとはいえ、それぞれが強みを持って独自のビールの形を見せてくれます。

独歩ビール

独歩ビール

「独歩ビール」は、1995年に造り酒屋「宮下酒造」が興したクラフトビールブランドです。宮下酒造が誕生したのは1915年で、岡山を代表する蔵元の一つとして清酒「聖」、大吟醸「極聖」を造り続けています。
独歩ビールは、若者の日本酒離れや低アルコール志向によって日本酒業界の低迷が続く中、生き残りと新たな活路を見出すために作り出されたビールブランドです。

独歩の名は「独立独歩」が由来で、中国地方初のクラフトブルワリーとして特色のあるビールを作る理念から名づけられました。醸造に当たってはドイツビールを手本としているので、「独」にはドイツの意味もあります。
開発にあたっては、ドイツ人ブラウマイスターのウォルフガング・ライアール氏の技術指導のもと、ドイツ製の醸造プラントを導入して生み出されました。麦芽はドイツ産で、水は清酒の仕込みにも用いられる地下100mからくみ上げられた旭川の伏流水を使っています。ビール本来の味を楽しんでもらうため、他のビールに比べて炭酸を弱めにしているのが特徴です。

2006年からは、倉敷市にあった倉敷麦酒館のブランド「倉敷麦酒」の譲渡を受け、独歩ビールと共に製造を行っています。クラフトビールブランドを興してからは、清酒やビール以外にも焼酎、リキュール、発泡酒、スピリッツ、ウイスキーなど、あらゆる酒類を製造する総合酒類メーカーを目指しているとのことです。

作州津山ビール

作州津山ビール

作州津山ビールは津山市にある造り酒屋「多胡本家酒造」が作るビールブランドです。多胡本家酒造は寛文~延宝年間(1660~1680年代)に創業し、現代では清酒「加茂五葉」や、焼酎「イツハ」で知られています。
ビールの醸造を始めたのは1996年で、醸造は清酒蔵の裏手にある「津山麦酒醸造場」において行っています。この醸造場の2階にあるテイスティングルームは、席数が40席ほどと少し大きめのパブ並みの規模です。
開設に当たっては責任者がドイツをはじめとして、アメリカ、東欧など数百か所の醸造所を訪ね歩き、徹底的な研究が行われました。麦芽はカナダ産、ホップはチェコやオーストリア産のファインアロマホップを使い、それ以外の副原料(米やコーンスターチ)は使用しないドイツ風のスタイルを貫いています。

水は清酒の仕込みに使う物と同じ、加茂川の伏流水です。この水はミネラル量が多く、高度が70と「軟硬水」に分類される水で、清酒に使うと辛口になり、ビールに使うと色が濃く重厚な味になるのが特徴です。
ボトルのラベルは通常のもの以外に、宇宙の絵を使用した「宇宙ラベル」シリーズが用意されており、贈り物などに人気があります。

吉備土手下麦酒

吉備津土手下麦酒

吉備土手下麦酒は岡山市で2006年に開業したクラフトブルワリーです。名前は場所が旭川の土手下にあることに由来します。
オーナーの永原氏は開業の十年前、ふとした拍子にビールが作りたいと思い立ち、町の豆腐屋さんのような身近な醸造所として吉備土手下麦酒を開設しました。身近な醸造所ということで、永原氏は「マイスター」のようなしゃれた名前ではなく、和風の「麦酒翁」を名乗っています。
小規模な醸造所ではビールの酒税を払うと価格がどうしても高くなってしまい、「地元のビール屋さん」としてお客さんに気軽に来てもらうのが難しくなることから、取得しているのはビールよりも税率が安い発泡酒の免許だけです。しかし、材料として使っているのは麦芽糖化エキスなので、実質的にはビールと何ら変わりません。
醸造設備は1リットル釜が4つだけと小規模ですが、銘柄の数はかなり豊富で、旬のフルーツを使ったフルーツビールシリーズ「魔女の物語」、受注生産品「ちゃいろの麦酒」など、さまざまなバリエーションが揃っています。

なお、吉備土手下麦酒では開業を目指す醸造士のために修行の場を提供しており、晴れて開業で来たときは「友達」として協定を結ぶ独自のシステムを採用しています。開業以来日本全土に送り出してきた友達ブルワリーの数は十を超えており、今後もますます増えていく予定です。
醸造所にはパブの「普段呑み場」が併設されており、出来立てのビールといろいろな料理が楽しめます。普段呑み場ではボトルも購入出来ますが、次に来店した時にこのボトルを持っていくと、中身だけ詰めてもらえるようになっています。

次回は鳥取県のクラフトブルワリーを紹介します。

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